・・・と思うが早いか、たちまち耳の火照り出すのを感じた。けれどもこれだけは覚えている。――お嬢さんも彼に会釈をした! やっと停車場の外へ出た彼は彼自身の愚に憤りを感じた。なぜまたお時儀などをしてしまったのであろう? あのお時儀は全然反射的で・・・ 芥川竜之介 「お時儀」
・・・午後はトタン屋根に日が当るものですから、その烈しい火照りだけでもとうてい本などは読めません。では何をするかと言えば、K君やS君に来て貰ってトランプや将棊に閑をつぶしたり、組み立て細工の木枕をして昼寝をしたりするだけです。五六日前の午後のこと・・・ 芥川竜之介 「手紙」
・・・ 竹藪の側を駈け抜けると、夕焼けのした日金山の空も、もう火照りが消えかかっていた。良平は、愈気が気でなかった。往きと返りと変るせいか、景色の違うのも不安だった。すると今度は着物までも、汗の濡れ通ったのが気になったから、やはり必死に駈け続・・・ 芥川竜之介 「トロッコ」
・・・胸は何だかおかしく熱り頬にはつめたい涙がながれていました。 ジョバンニはばねのようにはね起きました。町はすっかりさっきの通りに下でたくさんの灯を綴ってはいましたがその光はなんだかさっきよりは熱したという風でした。そしてたったいま夢である・・・ 宮沢賢治 「銀河鉄道の夜」
出典:青空文庫