・・・それは、よく廻った独楽が完全な静止に澄むように、また、音楽の上手な演奏がきまってなにかの幻覚を伴うように、灼熱した生殖の幻覚させる後光のようなものだ。それは人の心を撲たずにはおかない、不思議な、生き生きとした、美しさだ。 しかし、昨日、・・・ 梶井基次郎 「桜の樹の下には」
・・・恋の灼熱が通って、徳の調和に――さらに湖のような英知と、青空のような静謐とに向かって行くことは最も望ましい恋の上昇である。幾ら上って行ってもそのひろがりは詩と理想と光との世界である。平板な、散文の世界ではない。それがいのちというものの純粋持・・・ 倉田百三 「女性の諸問題」
・・・一気に峠を駈け降りたが、流石に疲労し、折から午後の灼熱の太陽がまともに、かっと照って来て、メロスは幾度となく眩暈を感じ、これではならぬ、と気を取り直しては、よろよろ二、三歩あるいて、ついに、がくりと膝を折った。立ち上る事が出来ぬのだ。天を仰・・・ 太宰治 「走れメロス」
・・・とあるのは、熔岩流の末端の裂罅から内部の灼熱部が隠見する状況の記述にふさわしい。「身一つに頭八つ尾八つあり」は熔岩流が山の谷や沢を求めて合流あるいは分流するさまを暗示する。「またその身に蘿また檜榲生い」というのは熔岩流の表面の峨々たる起伏の・・・ 寺田寅彦 「神話と地球物理学」
・・・純白な面に灼熱した炬火を捧げて、漂々たる河面から湧き上った自由の女神像こそ、その心持につり合って居りますでしょう。 それだのに、何故、私たちの目前にある其は、此れも亦醜いと云う点からさほど遠くない金鍍金で包まれて居るのでございましょう?・・・ 宮本百合子 「C先生への手紙」
・・・○彼らは自己の何ものなるかを悟ろうとし、それ故に限界を求める、自我の最極点を、何よりも自己の深さを、灼熱と冷却とにおいて知ろうとする p.194 ここにおけるDの意味○ドストイェフスキーが贏ようとつとめた共同体はもはや社・・・ 宮本百合子 「ツワイク「三人の巨匠」」
・・・いわゆる五・一五事件当時から山岸敬明と妻君のあや子という人の間には、新聞口調でいえば、灼熱のロマンスがひめられていたそうです。このあやさんが賀陽氏のいとこなのだそうです。 だいたい生活能力のあたえられずに生きてきた皇族の今日の生活は、実・・・ 宮本百合子 「ファシズムは生きている」
・・・ゴーリキイは、灼熱された石炭の中に投げ込まれた一片の鉄のように自分を感じ、強烈で新鮮な印象に充たされながら、「彼等の辛辣な環境に沈潜して見ようという希望を呼び醒された」のであった。 然し、時が経つにつれ、ゴーリキイの心に一つのつよい疑い・・・ 宮本百合子 「逝けるマクシム・ゴーリキイ」
出典:青空文庫