・・・元来婦人の性質は穎敏にして物に感ずること男子よりも甚しきの常なれば、夫たる者の無礼無作法粗野暴言、やゝもすれば人を驚かして家庭の調和を破ること多し。之を慎しむは男子第一の務なる可し。又夫の教訓あらば其命に背く可らず、疑わしきことは夫に問うて・・・ 福沢諭吉 「女大学評論」
・・・例なれば、婦人の教育についてもその形を先にし、先ず衣裳を改めて文明の風を装い、交際を開いて文明の盛事を学び、只管外国婦人の所業に傚うて活溌を気取り、外面の虚飾を張りてかえって裏面の実を忘れ、活溌は漸く不作法に変じ、虚飾は遂に家計を寒からしめ・・・ 福沢諭吉 「日本男子論」
・・・それは第一に、平生紳士らしい行動をしようと思っていて、近ごろの人が貴夫人に対して、わざとらしいように無作法をするのに、心から憤っていたからである。第二にはジネストの奥さんの手紙が表面には法律上と処世上との顧問を自分に託するようであって、その・・・ 著:プレヴォーマルセル 訳:森鴎外 「田舎」
・・・ 出て行った音をきき乍ら書斎に入り、私は何と云う無作法な男かと思った。文学を遣ると云ったのを思い出し空恐ろしい気もする。 夜中に見た夢が悪かったのか、男が余りがさつであった為か、私の気分は愈々悪化した。・・・ 宮本百合子 「或日」
・・・ 信濃教育会教育研究所が、小学生の行動について父兄が問題だと考える点を調査したら、「無作法」各学年を通じて七〇%、「根気がない」三年七六%、六年七三%、「理窟をこねるが実行力がない」各学年四二%そのほかだった。青少年の育ってゆく精神・・・ 宮本百合子 「修身」
・・・京都など、そのように不作法な風が吹かないしほこりは立たないし――高台寺あたりのしっとりした木下路を想うと、すがすがしさが鼻翼をうつようだ。とかく白濁りの空の下に、白っぽくよごれた桜が咲いている光景、爛漫としているだけ憂鬱の度が強い。 け・・・ 宮本百合子 「塵埃、空、花」
・・・ けれども、にわかに荒くれた、彼等の仲間ではこんなに無慈悲で、不作法なものはなかった人間どもが、昔ながらの「仕合わせの領内」へ闖入して来た。 そして大きな斧が容赦なく片端しから振われ始めたのである。 まだ生れて間もない、細くしな・・・ 宮本百合子 「禰宜様宮田」
・・・ 腕を組んで漫歩する紳士が、枝に止まった小鳥のように目白押しする彼等の、その真正面で、ペッと地面に不作法な唾を吐く―― 其でも彼等は体を揺って、ハハと笑う、ハハと笑う…… 皆が侮る黒坊、泣いても笑っても、白くは成れない黒坊…・・・ 宮本百合子 「一粒の粟」
出典:青空文庫