・・・あるいは特にそういう人たちはこの時間を利用して庭にでもおり、高い大空を仰いで白雲でもながめながら無念無想の数分間を過ごす事ができたらその効果は肉体的にも精神的にも意外に大きなものになるかもしれない。私はむしろ大多数の人のために何よりも一番に・・・ 寺田寅彦 「一つの思考実験」
・・・ 吾人が事象に対した時に、吾人の感官が刺戟されても、無念無想の渾沌たる状態においては自分もなければ世界もない。そのような状態が分裂して、能知者と所知者が出来る事によって、始めて認識が成立し始める。そこから色々な観念が生れ、観念は更に分裂・・・ 寺田寅彦 「文学の中の科学的要素」
・・・ 第四日 人間が無念無想になる時は、一日の中に可成沢山有る。私の一日中に無念無想になる時には、 朝起きてかおを洗う時……手拭に水をためて顔にあてた切那、 あくびをする時、あついお湯にしずむ時、だるくってそ・・・ 宮本百合子 「芽生」
出典:青空文庫