・・・痛いには違いあるまいが、頭がただもう茫と無感覚になっているから、それで分らぬのだろう。また横臥で夢になって了え。眠ること眠ること……が、もし万一此儘になったら……えい、関うもんかい! 臥ようとすると、蒼白い月光が隈なく羅を敷たように仮の・・・ 著:ガールシンフセヴォロド・ミハイロヴィチ 訳:二葉亭四迷 「四日間」
・・・また私の耳も日によってはまるっきり無感覚のことがあった。そして花の盛りが過ぎてゆくのと同じように、いつの頃からか筧にはその深祕がなくなってしまい、私ももうその傍に佇むことをしなくなった。しかし私はこの山径を散歩しそこを通りかかるたびに自分の・・・ 梶井基次郎 「筧の話」
・・・ ついに肉体は無感覚で終わりました。干潮は十一時五十六分と記載されています。その時刻の激浪に形骸の翻弄を委ねたまま、K君の魂は月へ月へ、飛翔し去ったのであります。 梶井基次郎 「Kの昇天」
・・・ 義兄は落ちついてしまって、まるで無感覚である。「へ、お火鉢」婦はこんなことをそわそわ言ってのけて、忙しそうに揉手をしながらまた眼をそらす。やっと銀貨が出て婦は帰って行った。 やがて幕があがった。 日本人のようでない、皮膚の・・・ 梶井基次郎 「城のある町にて」
・・・そしてその話は私にとって無感覚なのでした。そんなことにも私自身がこだわりを持っていました。二 或る日Oが訪ねてくれました。Oは健康そうな顔をしていました。そして種々元気な話をしてゆきました。―― Oは私の机の上においてあ・・・ 梶井基次郎 「橡の花」
・・・あの窓をあけて首を差し伸べそうな気さえする。がしかしそれも、脱ぎ棄てた宿屋の褞袍がいつしか自分自身の身体をそのなかに髣髴させて来る作用とわずかもちがったことはないではないか。あの無感覚な屋根瓦や窓硝子をこうしてじっと見ていると、俺はだんだん・・・ 梶井基次郎 「冬の日」
・・・それはこの手記のおしまいまでお読みになったら、たいていの読者には自明の事で、こんな断り書きは興覚めに違いないのであるが、ちかごろ甚だ頭の悪い、無感覚の者が、しきりに何やら古くさい事を言って騒ぎ立て、とんでもない結論を投げてよこしたりするので・・・ 太宰治 「親友交歓」
・・・ このような人は単に自分の担任の建築や美術品のみならず、他の同種のものに対しても無感覚になる恐れがある。たとえばよその寺で狩野永徳の筆を見せられた時に「狩野永徳の筆」という声が直ちにこの人の目をおおい隠して、眼前の絵の代わりに自分の頭の・・・ 寺田寅彦 「案内者」
・・・もっとも、魚類がこの種の短週期弾性波に対してどう反応するかについて自分はあまりよく知らないが、これだけの振動に全然無感覚であろうとは想像し難い。 地鳴りの現象については、わが国でもすでに大森博士らによっていろいろ研究された文献がある。そ・・・ 寺田寅彦 「怪異考」
・・・あるいはまた食っているうちに鼻が腐肉の臭気に慣らされて無感覚になったということも可能である。 ダーウィンの場合にでも試験用の肉片を現場に持ち込む前にその場所の空気がよごれていて、人間にはわからなくても鳥にはもうずっと前から肉のにおいか類・・・ 寺田寅彦 「とんびと油揚」
出典:青空文庫