・・・ そして私達は街道のそこから溪の方へおりる電光形の路へ歩を移したのであったが、なんという無様な! さきの路へゆこうとする意志は、私にはもうなくなってしまっていた。 梶井基次郎 「闇の書」
・・・陶工が凡庸であるためにせっかく優良な陶土を使いながらまるで役に立たない無様な廃物に等しい代物をこね上げることはかなりにしばしばある。これでは全く素材がかわいそうである。しかし学問の場合においては、いい素材というものは一度掘り出されればいつか・・・ 寺田寅彦 「空想日録」
・・・ 父親がきの毒で、一時は、書くのを止めようかとも思ったけれ共、さりとて、黙ったまますむ事でもないので、ロール手紙に禿びた筆で、不様な手紙を書き始めた。 まとまりのない、日向の飴の様な字をかなり並べる間、お金は傍に座って筆の先を見なが・・・ 宮本百合子 「栄蔵の死」
・・・コールターで無様に塗ったトタン屋根の工場、工場、工場とあると思うと、一種異様な屑物が山積した空地。水たまり。煤をかぶった狭い不規則な地面の片端を利用した野菜畑。色さまざまの干物の一杯ある家屋の裏。汽車は高いところを走っているから、そういうゴ・・・ 宮本百合子 「東京へ近づく一時間」
・・・それからのう貴方様、まだ和子とお呼び申して居った頃の事での、 お城内の腕白共がフト迷い込んで出る道を忘れたあほう鳩を捕えて足に石を結いつけては追ってよう飛ばぬ不様な形を見て笑って居るのをお見なされてその者達の所にお出なされて、 もう・・・ 宮本百合子 「胚胎(二幕四場)」
出典:青空文庫