・・・もっとも、有りふれた「無題」とか「断片」とかいう種類のものにすればいちばん無難ではあるが、それもなんだかあまり卑怯なような気がする。いろいろ考えているとき座右の楽譜の巻頭にあるサン・サーンの Rondo Capriccioso という文字が・・・ 寺田寅彦 「自由画稿」
・・・「橋梁架設工事」「生活の脈動」「町工場」「シベッチャの山峡」「下水工事場」「三河島町風景」「無題」などの中に、いくつか印象のつよい作がありました。山田清三郎が獄中からよこす歌には何とも云えぬ素直さ、鍛えられた土台の上に安々としている或るユー・・・ 宮本百合子 「歌集『集団行進』に寄せて」
・・・て居る紫陽花に悪魔の使か黒蝶が謎のとぶよにとんで居る、ヒーラ、ヒーラ、ヒーラわきにくもめが白銀の糸でとり手を作ってるヒーラヒーラ黒蝶が紫陽花にとぶ夏の夕 〔無題〕カガヤケ かがやけ可愛い御・・・ 宮本百合子 「つぼみ」
・・・ 〔無題〕 外には木枯しがおどろくほどの勢で吹きまくって居る。私は風を引きこんで出た少しの熱に頭中をかき廻される様に感じながら、わけもなく並んだ本の名前を順によんで行って見たり読む気もなくって一冊ずつ手にとったりして・・・ 宮本百合子 「芽生」
出典:青空文庫