・・・たとい皮肉は爛れるにしても、はらいそ(天国の門へはいるのは、もう一息の辛抱である。いや、天主の大恩を思えば、この暗い土の牢さえ、そのまま「はらいそ」の荘厳と変りはない。のみならず尊い天使や聖徒は、夢ともうつつともつかない中に、しばしば彼等を・・・ 芥川竜之介 「おぎん」
・・・草津の湯は、皮膚の爛れるように熱い湯であると聞いている。六畳の室には電燈が吊下っていて、下の火鉢に火が熾に起きている。鉄瓶には湯が煮え沸っていた。小さな机兼食卓の上には、鞄の中から、出された外国の小説と旅行案内と新聞が載っている。私は、此の・・・ 小川未明 「渋温泉の秋」
・・・ これを見るに就けて自分の心は愈々爛れるばかり。然し運命は永くこの不幸な男女を弄そばず、自分が革包を隠した日より一月目、十一月二十五日の夜を以って大切と為てくれた。 この夜自分は学校の用で神田までゆき九時頃帰宅って見ると、妻が助を背・・・ 国木田独歩 「酒中日記」
出典:青空文庫