・・・お祖母様は「今の娘はねー、お前なんぞ夢にも見た事のない苦しい思をして居るんだよ、あの子のお父さんと云うのは村で評判の呑ん平で一日に一升びんを三本からにすると云うごうのものなんだよ、それでおまけに大のずる助で実の子のあのお清に物をうらせて自分・・・ 宮本百合子 「同じ娘でも」
・・・をかいて、健坊の父さんとは又違った意気ごみを示して居るのも面白うございます。文章を簡明――直截にしようということをこころみていて、そのことのなかには又いろいろの気持がこめられているのでしょうと思われます。 三十一日には、近年にない大雨で・・・ 宮本百合子 「獄中への手紙」
・・・そして一辷りやるでしょう。父さんはちぢこまってどてらを着ていても、息子は雪の中にころべまた起き上って辷れ、と願う心は自然な健全さを持っているものですね。私もこれには満足です。 十一月二十五日 〔巣鴨拘置所の顕治宛 駒込林町より〕・・・ 宮本百合子 「獄中への手紙」
或る若い母さんのうちに小学四年になった男の子がいる。一人っ子であるから、どうしても親たちの生活の目撃者となることが多い。 その子が或るとき作文を書いた。父さんと母さんが喧嘩をしました。父さんが大きい声で出てゆけと云って・・・ 宮本百合子 「子供の世界」
・・・十六の少女として父さんと浜で重い材木を動かす手伝いをして働いた時から、ずっと勤労の生活が経験されていて、その経験は、天性の気質に、一つの現実的な厚いゆたかで強靭な裏づけを与えることとなっている。 作者がある意味で話し上手で、楽な印象を与・・・ 宮本百合子 「『暦』とその作者」
・・・南フランスから出て来たドーデが巴里でそのような可憐ないくつかの小説を書きはじめた時分、小さな一人の男の子が書斎の父さんのところから、隣室で清書している母さんのところまでよちよちと書きあげられた原稿を一枚一枚運ぶ役をつとめた。ドーデはその回想・・・ 宮本百合子 「今日の生活と文化の問題」
――ミーチャ、さあ早く顔あらっといで! お母さんは、テーブルの前へ立ってパンを切りながら、六つの息子のミーチャに云った。 ――もうすぐお茶だよ。 父さんは、朝日がキラキラ照る窓ぎわへ腰かけて、昨夜工合がわるかっ・・・ 宮本百合子 「楽しいソヴェトの子供」
・・・「ひよろしがって居ますんだ。と云う。 私は、田舎の子の眼に見つめられる事にはなれっ子になって居たので格別間が悪とも思わなかった。「父さんや、母さんは? 淋しいだろう?とやさしい軽い笑をただよわせながら・・・ 宮本百合子 「農村」
・・・用事で公園をいそぎ足にぬけていたら、いかにも菊作りしそうな小商人風の小父さんが、ピンと折れ目のついた羽織に爪皮のかかった下駄ばきで、菊花大会会場と立札の立っている方の小道へ歩いて行きました。 先達って靖国神社のお祭りの時は、二万人ほどの・・・ 宮本百合子 「二人の弟たちへのたより」
・・・そこには子供の父さんがいる。母さんも働いている。おとなしい日本のカメラは律儀にその人々にお辞儀をして、早口にものを云って、さっさときりあげて出て来る。ああここにはこういう生活がある、とその生活の姿に芸術の心をつかまれてグルリ、グルリと執拗に・・・ 宮本百合子 「「保姆」の印象」
出典:青空文庫