・・・お披露目をするといってもまさか天婦羅を配って歩くわけには行かず、祝儀、衣裳、心付けなど大変な物入りで、のみこんで抱主が出してくれるのはいいが、それは前借になるから、いわば蝶子を縛る勘定になると、反対した。が、結局持前の陽気好きの気性が環境に・・・ 織田作之助 「夫婦善哉」
・・・そして存外物入りは少かった。 夏もいつか過ぎて、秋の雨が降り出した。ドリスはまた毎日ウィインへ出る。面白い話を土産に持って帰る。楽屋落の処に、特殊の興味のあるような話で、それをまた面白く可笑しく話して聞せる。 しかしポルジイにはそれ・・・ 著:ダビットヤーコプ・ユリウス 訳:森鴎外 「世界漫遊」
・・・ 病気の経過だの、物入りだのを、輪に輪をかけて話して、仕舞いにはきっと、自分の益になる方へと落して行った。 栄蔵は、いやな女だと思いながら、我慢してその話をきき終るとすぐ、お君の部屋へつれて行かせた。 すぐ、襖一重の隔たりだ・・・ 宮本百合子 「栄蔵の死」
出典:青空文庫