・・・つまり、芸術家と普通人との間には、如何に、物象の観方に純粋さの差異があるか、又、その差異が、一種常套的な道徳感のようなものと結合して、一般人の胸からは、如何程抜き難いものになって居るか、と云うことの反省である。 事なら事を、其自体、人間・・・ 宮本百合子 「二つの家を繋ぐ回想」
・・・そして、本当の芸術は見える物象のただのひきうつしではないということを彼女は本ものの芸術家らしい見識で発見している。耳はますます遠くなった。肺の両方がわるい。しかも、バラ色の顔で、外見は何でもなさそうに日夜をわかたずアトリエ暮しをしている二十・・・ 宮本百合子 「マリア・バシュキルツェフの日記」
・・・ 享楽の能力が豊富であるとは、物象に現われた生命の価値を十分に味わい得るということである。そのためにはあらゆる種類の物象に対して常に生命の共鳴を感じ得るほどに自己の生命が広く豊かでなくてはならない。 木下杢太郎はその享楽の力の広汎豊・・・ 和辻哲郎 「享楽人」
出典:青空文庫