・・・或人は焼けた書籍の中の特記すべきものを訊いた。或人は丸善の火災が文明に及ぼす影響などゝ云う大問題を提起した。中には又突拍子もない質問を提出したものもあった。曰く、『焼けた本の目録はありますか?』 丸善は如何に機敏でも常から焼けるのを待構・・・ 内田魯庵 「灰燼十万巻」
・・・しかし流石にその二三の作品だけは、ニイチェでなければ書けない珠玉の絶唱で、世界文学史上にも特記さるべき名詩である。特に「今は秋、その秋の汝の胸を破るかな!」の悲壮な声調で始まつてる「秋」の詩。及び鴉等は鳴き叫び風を切りて町へ・・・ 萩原朔太郎 「ニイチェに就いての雑感」
・・・という見出しの下に、 └──────┘└───┘と特記しています。 熱海ホテルでは暖房の工合がわるくて落付かないと云って、妹をつれ、宮の下へ行ったのだそうでした。翌十一日には、朝昼二回血尿とあり。父は自分の体の異和を益々感・・・ 宮本百合子 「父の手帳」
・・・というものを知らなかった。それを幾何と読んで友達に笑われた。だが、翌年の秋には、東京中学の五年の二学期の補欠試験に合格している。六高に入った時、「父はじめて喜ぶ」と特記されているのであるが、秋に「父が死去したので、入学を取消し、家事の後始末・・・ 宮本百合子 「山本有三氏の境地」
出典:青空文庫