・・・しかしどこか独自なところがあって、平生の話の中にも、その着想の独創的なのに、我々は手を拍って驚くことがよくあった。晩年にはよく父は「自分が哲学を、自分の進むべき路として選んでおったなら、きっと纏まった仕事をしていたろう」と言っていた。健康は・・・ 有島武郎 「私の父と母」
・・・ 独創なき書物は、畢竟平凡な教師のようなものです。 知っていることを、伝えればそれでいゝというのでない。伝えるにしても、生かして与えると、死なして与えるとの相違があります。はつらつたる感情や、勇気や、光輝というようなものは、創生の喜・・・ 小川未明 「読むうちに思ったこと」
・・・こうした将棋の根本を狙った氏の独創的作戦であったのです」といたわりの言葉をもってかばっている。花田八段の人物がしのばれるのである。 花田八段はその対局中しばしば対局場を間違えたということである。天龍寺の玄関を上って左へ折れすぐまた右へ折・・・ 織田作之助 「勝負師」
・・・いつ頃出来た言葉か知りませんが、日本人がこしらえた言葉の中では、なかなか独創性に富んだいい言葉であります。表現――つまり言い現わし方そのものが独創性に富んでいるばかりでなく、「猫も杓子」云々という言葉の内容自身が、人間というものは独創的でな・・・ 織田作之助 「猫と杓子について」
・・・ところどころに少年の独創も加味されていました。第一に、襟です。大きい広い襟でした。どういうわけか広い襟を好んだようです。その襟には黒のビロオドを張りました。胸はダブルの、金ボタンを七つずつ、きっちり並べて附けました。ボタンの列の終ったところ・・・ 太宰治 「おしゃれ童子」
・・・亦、シェストフを写します、『チエホフの作品の独創性や意義はそこにある。例えば喜劇「かもめ」を挙げよう。そこではあらゆる文学上の原理に反して、作品の基礎をなすものは、諸々の情熱の機構でも、出来事の必然的な継続でもなく、裸形にされた純粋の偶然と・・・ 太宰治 「虚構の春」
・・・本当の意味の謙遜がない。独創性にとぼしい。模倣だけだ。人間本来の「愛」の感覚が欠如してしまっている。お上品ぶっていながら、気品がない。そのほか、たくさんのことが書かれている。本当に、読んでいて、はっとすることが多い。決して否定できない。・・・ 太宰治 「女生徒」
・・・彼は独創的な研究によって人間の眼は獣類の眼と入れ替える事が容易で、且つ獣類の中でも豚の眼と兎の眼が最も人間の眼に近似している事を実験的に証明した。彼は或る盲目の女に此の破天荒の手術を試みたのである。接眼の材料は豚の目では語呂が悪いから兎の目・・・ 太宰治 「女人訓戒」
・・・「価値のある独創は他人に似ないという事ではない。」「最大の天才は最も負債の多い人である。」こんな意味の言詞が思い出された。 それからまたある盲目の学者がモンテーニュの研究をするために採った綿密な調査の方法を思い出した。モンテーニュの論文・・・ 寺田寅彦 「浅草紙」
・・・この言葉のもてはやされる以前に米のグリフィスや仏のガンスなどの実行したいろいろの独創的な効果的手法は畢竟モンタージュの先駆的実例を提供するものである。 しかしこの言葉の内容が細かに分析されるようになり、「併行モンタージュ」「比喩モンター・・・ 寺田寅彦 「映画芸術」
出典:青空文庫