・・・明るさの環内での人々の輪廓を鮮明にきわ立たせ、その動きをやや誇大した重要さで感覚させ、その意味では強烈にくっきりとしているから、ぐるり闇にかこまれていることから、自分の判断の世界にも確信はつよく、だが独善に座りがちであるという、そのようなも・・・ 宮本百合子 「文学と地方性」
・・・そうだとすれば書記長の発言にあるわたしの非大衆性、非階級性、独善という断定はおのずから反証されているわけです。 わたしが立候補できない一つは上述のような健康上の理由です。議員その他の必要条件の一つは、健康であるということは党員議員の一・・・ 宮本百合子 「文学について」
・・・ ファッシズム文化の特色である独善的な民族主義の立場から、筆者は「中国人の平気さにはあきれる」などというが、さすがに、時々はそこから「抵抗のない、無限の抵抗を感ずるのだ。たしかに中国人は底の知れない深さと底力をもっている」ことに圧迫をう・・・ 宮本百合子 「文芸時評」
・・・料を祖父にとられる貧しい小僧だから、淫売をする洗濯女といちゃついて、酔倒れた兵卒のポケットから財布を掠めもするだろうと思われ、全然事実とは違うその卑俗な偏見によって昏倒する迄彼を殴りつけた周囲の人々の独善的な小市民気質に対する歯に衣きせぬ反・・・ 宮本百合子 「マクシム・ゴーリキイの伝記」
・・・型にはまった抑揚でも、今日の社会生活の面にふれて、官僚独善に対する非難は囂々たるものがありますといえば、拍手は議席一体から湧きおこるのである。電力不足、石炭不足、悪性インフレーション防止、円ブロックの問題の対策如何に。米のないこと、マッチの・・・ 宮本百合子 「待呆け議会風景」
・・・ 戦争の年々の絶大なマイナスのために日本の民主化は今日混乱し、独善にはびこられてもいる。作家も評論家も、この混迷からまったく自由にはなっていない。日本の民主主義革命の現在の本質をはっきりつかまないところからおこるブルジョア民主的な自我確・・・ 宮本百合子 「両輪」
・・・、肝腎の近代の黎明であるルネッサンス前後に日本の支配層が小さく安全に自分の権力を確保しようとして、厳しい鎖国政策を執ったために、ヨーロッパがその後急速に近代化した三、四世紀の間を、日本は全く孤立して、独善的に生産も経済も全くおくれた土台のま・・・ 宮本百合子 「私たちの建設」
・・・自分に小説をかかしたその家庭の積極の面とともに作用する消極の面――わかい天才主義、独善の傾向、型にはまりやすさとたたかうと同時に、一定の仕事を生涯の仕事ときめた若い女のもつ、結婚、家庭生活と仕事との間の板ばさみの苦しさを経なければならなかっ・・・ 宮本百合子 「私の青春時代」
・・・手を引き込めておれば、独善と云う。残酷と云う。冷澹と云う。それは人の口である。人の口を顧みていると、一本の手の遣所もなくなる。 これはサフランと云う草と私との歴史である。これを読んだら、いかに私のサフランに就いて知っていることが貧弱だか・・・ 森鴎外 「サフラン」
出典:青空文庫