・・・当時文化活動に献身していた一人の同志の健気の生活から感銘された作品である。同じころ、創作のためには非常に無理だった条件のなかで、しかも小説をかく必要があったとき、佐多稲子が「進路」という一篇をまとめたことは、彼女の作家的閲歴としてもプロレタ・・・ 宮本百合子 「解説(『風知草』)」
・・・だから、科学というとすぐ理智的ということでばかり受けとって科学を扱う人間がそこに献身してゆく情熱、よろこびと苦痛との堅忍、美しさへの感動が人間感情のどんなに高揚された姿であるのも若い女のひとのこころを直接にうたない場合が多い。このことは逆な・・・ 宮本百合子 「科学の常識のため」
・・・キュリー夫人が科学の客観的な真理との関係で、自分の箇人的な勉強などを伝説化すまいとした潔癖は気品ある態度であり、科学に献身した者らしい無私を語っている。けれども、人間の歴史の嶮しい波の中での女の生きる姿という広さにおいてみれば、彼女が少女時・・・ 宮本百合子 「寒の梅」
・・・マリアとの間には、花の香とそのかおりを吹きおくるそよ風のように微妙な心のかよいがあったにしろ、マリアを純一にし、まじりけなく行動させたのは窮極において、彼女が人間の関係のうちに見出したまともなものへの献身であった。 正義、良心、恥を知る・・・ 宮本百合子 「傷だらけの足」
・・・今日の饑餓と社会生活全面の破綻をもたらした戦争について、人民を其処へ追い込むまいと献身し、わが身を犠牲とした代議士が、一人でも在っただろうか。只今開催中の臨時議会は、戦争犯罪人の摘発に脅かされて、新聞はおのずから諷刺的に彼等の恐慌を語ってい・・・ 宮本百合子 「現実に立って」
・・・彼の人及び芸術家としての壮大な歓び、悲しみ、辛苦、不撓な芸術への献身などは、ルネサンスの花咲きみちた十五世紀の伊太利、その自由都市国家フィレンツェの人民の繁栄及び近代的進歩の挫折の過程と、たちがたい関係をもって互につながり合っているものであ・・・ 宮本百合子 「現代の心をこめて」
・・・ その国の民主主義が社会主義の段階まで到達しているところ、そして、非条理なナチズムの専制に献身して闘ってそれを撃破しえたソヴェト同盟の文化が、シェクスピアをとりあげる場合、それはまたおのずから異っているであろう。成人したとき、人々はゆと・・・ 宮本百合子 「現代の主題」
・・・殊に大学の三百年祭の事を知らせてよこした時なんぞは、秀麿はハルナックをこの目覚ましい祭の中心人物として書いて、ウィルヘルム第二世とハルナックとの君臣の間柄は、人主が学者を信用し、学者が献身的態度を以て学術界に貢献しながら、同時に君国の用をな・・・ 森鴎外 「かのように」
・・・という洋語も知らず、また当時の辞書には献身という訳語もなかったので、人間の精神に、老若男女の別なく、罪人太郎兵衛の娘に現われたような作用があることを、知らなかったのは無理もない。しかし献身のうちに潜む反抗の鋒は、いちとことばを交えた佐佐のみ・・・ 森鴎外 「最後の一句」
・・・そして木村の方へ向いて、「これまで死刑になった奴は、献身者だというので、ひどく崇められているというじゃないか」と云った。 木村は「Ravachol―Vaillant―Henry―Caserio」と数を読むように云って、「随分盛んに主義の・・・ 森鴎外 「食堂」
出典:青空文庫