・・・宿屋の主人 いよいよ王女の御婚礼があるそうだね。第一の農夫 そう云う話だ。なんでも御壻になる人は、黒ん坊の王様だと云うじゃないか?第二の農夫 しかし王女はあの王様が大嫌いだと云う噂だぜ。第一の農夫 嫌いなればお止しなされ・・・ 芥川竜之介 「三つの宝」
・・・まして火の中へ隠れてしまう魔法を知って居る犬山道節だの、他人の愛情や勇力を受けついでくれる寧王女のようなそんな人は、どう致しまして有るわけのものではありません。それでは馬琴が描いた小説中の人物は当時の実社会とはまるで交渉が無いかというと、前・・・ 幸田露伴 「馬琴の小説とその当時の実社会」
・・・これはこの世界中で一ばん美しい王女の顔だ。」とお言いになりました。 王さまは今ではよほど年を取ってお出でになるのですが、まだこれまで一度も王妃がおありになりませんでした。それには深いわけがありました。王さまは、お若いときに、よその国を攻・・・ 鈴木三重吉 「黄金鳥」
・・・ そのころ或国の王さまに、美しい王女がありました。その王女を世界中の王さまや王子が、だれもかれもお嫁にほしがって、入りかわりもらいに来ました。 しかし王女は、どんなりっぱな人のところから話があっても、厭だ、と言って、はねつけてしまい・・・ 鈴木三重吉 「ぶくぶく長々火の目小僧」
・・・ペエトル一世が、王女アンの結婚を祝う意味で、全国の町々に、このような小さい公園を下賜せられた。この東洋の金魚も、王女アンの貴い玩具であったそうな。私はこの小さい公園が好きだ。瓦斯燈に大きい蛾がひとつ、ピンで留められたようについている。ふと見・・・ 太宰治 「女の決闘」
・・・これを、花やかに美しい、たとえばおとぎ話の王女のようなベコニアと並べて見た時には、ちょうど重々しく沈鬱なしかも若く美しい公子でも見るような気がした。花冠の下半にたれた袋のような弁の上にかぶさるようになった一片の弁は、いつか上に向き直って袋の・・・ 寺田寅彦 「病室の花」
・・・大王はお妃と王子王女とただ四人で山へ行かれた。大きな林にはいったとき王子たちは林の中の高い樹の実を見てああほしいなあと云われたのだ。そのとき大王の徳には林の樹もまた感じていた。樹の枝はみな生物のように垂れてその美しい果実を王子たちに奉った。・・・ 宮沢賢治 「学者アラムハラドの見た着物」
・・・ 全く、王女のように賢く、「はかない定命の下に生れた女」と云う優しい憂鬱、同時に、美しい見識を以て、白鳥のように、生活していらっしゃりたく、又被居るのではないのでしょうか。私は極々人間的なのです、総ての見方が。それ故、自分並全人類の持つ・・・ 宮本百合子 「大橋房子様へ」
・・・で、幸福そうな若夫婦はエリザベス王女とエディンバラ公であった。かわいらしい男の赤ちゃんはチャールズで、夏別荘に暮している一家のスナップなのだった。 エリザベス王女のあらゆる種類の写真が世界にひろがっている。威厳がありすぎるほど威厳にみち・・・ 宮本百合子 「権力の悲劇」
・・・今度王女様が隣りの国の王子と御婚礼遊ばすについて、どうか、朝着る着物を、貴女に繍って貰いたいとおっしゃいます。夜のお召は、宝石という宝石を鏤めて降誕祭の晩のように立派に出来ました。朝のお召は、何とかして、夜明けから昼迄の日の色、草木の様子を・・・ 宮本百合子 「ようか月の晩」
出典:青空文庫