・・・而して其著「理学鈎玄」は先生が哲学上の用語に就て非常の苦心を費したもので「革命前仏蘭西二世紀事」は其記事文の尤も精采あるものである。而して先生は殊に記事文を重んじた。先生曰く、事を紀して読者をして見るが如くならしむるは至難の業である。若し能・・・ 幸徳秋水 「文士としての兆民先生」
・・・主意は泰西の理学とシナの道徳と並び行なうべからざるの理を述ぶるにあり。文辞活動。比喩艶絶。これを一読するに、温乎として春風のごとく、これを再読するに、凜乎として秋霜のごとし。ここにおいて、余初めて君また文壇の人たるを知る。 今この夏、ま・・・ 田口卯吉 「将来の日本」
・・・しかし万一将来の実験や観測の結果が、彼の現在の理論に多少でも不利なような事があったとしても、彼の物理学者としてのえらさにはそのために少しの疵もつかないだろうという事は、彼の仕事の筋道を一通りでも見て通った人の等しく承認しなければならない事で・・・ 寺田寅彦 「アインシュタイン」
・・・ 我邦ではまだそれほどでもないが、それでも彼の名前は理学者以外の方面にも近頃だいぶ拡まって来たようである。そして彼の仕事の内容は分らないまでも、それが非常に重要なものであって、それを仕遂げた彼が非常な優れた頭脳の所有者である事を認め信じ・・・ 寺田寅彦 「アインシュタインの教育観」
熊本高等学校で夏目先生の同僚にSという○物学の先生がいた。理学士ではなかったがしかし非常に篤学な人で、その専門の方ではとにかく日本有数の権威者だという評判であった。真偽は知らないが色々な奇行も伝えられた。日本にたった二つと・・・ 寺田寅彦 「埋もれた漱石伝記資料」
・・・それでもこの失敗した試みが自分の理学的知識欲を刺激する効果のあっただけは確かである。南国の盛夏の真昼間の土蔵の二階の窓をしめ切って、満身の汗を浴びながら石油ランプに顔を近寄せて、一生懸命に朦朧たる映像を鮮明にかつ大きくすることに苦心した当時・・・ 寺田寅彦 「映画時代」
・・・フォークトはその結晶物理学の冒頭において結晶の整調の美を管弦楽にたとえているが、また最近にラウエやブラグの研究によって始めて明らかになった結晶体分子構造のごときものに対しても、多くの人は一種の「美」に酔わされぬわけに行かぬ事と思う。この種の・・・ 寺田寅彦 「科学者と芸術家」
一 地震の概念 地震というものの概念は人々によってずいぶん著しくちがっている。理学者以外の世人にとっては、地震現象の心像はすべて自己の感覚を中心として見た展望図に過ぎない。震動の筋肉感や、耳に聞こゆる破壊的の音響や、眼に見える物・・・ 寺田寅彦 「地震雑感」
・・・これについては現に理化学研究所平田理学士によって若干の実験的研究が進行しているが、これもやはり広義の拡散的漸進的現象に伴なう、不連続的あるいは局発現象であって、従来有りふれの単純な拡散の理論だけでは、間に合わない筋のものであろうと思われる。・・・ 寺田寅彦 「自然界の縞模様」
・・・「然る処続冬彦集六八頁第二行に、『速度の速い云々』と有之り之は素人なら知らぬ事物理学者として云ふべからざる過誤と存じ候、次の版に於ては必ず御訂正あり度し 失礼を顧みず申上ぐる次第に御座候 敬具」 なるほど、物理学では速度の大・・・ 寺田寅彦 「随筆難」
出典:青空文庫