・・・蓮華夫人が五百の卵を生む。その卵が川に流されて、隣国の王に育てられる。卵から生れた五百人の力士は、母とも知らない蓮華夫人の城を攻めに向って来る。蓮華夫人はそれを聞くと、城の上の楼に登って、「私はお前たち五百人の母だ。その証拠はここにある。」・・・ 芥川竜之介 「捨児」
・・・それでも月々子を生む妃があるのだから驚きます。 ――誰か忍んで来る男があるのじゃありませんか。 ――私も始めはそう思ったのです。所がいくら番の兵士の数をふやしても、妃たちの子を生むのは止りません。 ――妃たちに訊いてもわかりませ・・・ 芥川竜之介 「青年と死」
・・・いい子を生むか死ぬか、そのどっちかだ。だから死際の装いをしたのだ。――その時も私は心なく笑ってしまった。然し、今はそれも笑ってはいられない。 深夜の沈黙は私を厳粛にする。私の前には机を隔ててお前たちの母上が坐っているようにさえ思う。その・・・ 有島武郎 「小さき者へ」
・・・あの大俗物の堂脇があんな天女を生むんだから皮肉だよ。そうしてかの女は、芸術に対する心からの憧憬を踏みにじられて、ついには大金持ちの馬鹿息子のところにでも片づけられてしまうんだ……あんな人をモデルにつかって一度でも画が描いて見たいなあ。瀬・・・ 有島武郎 「ドモ又の死」
・・・なかなか産む処を見せないが。」「旦那、とんでもねえ罰が当る。」「撃つやつとどうかな。」段々秋が深くなると、「これまでのは渡りものの、やす女だ、侍女も上等のになると、段々勿体をつけて奥の方へ引込むな。」従って森の奥になる。「今度見つけた巣は一・・・ 泉鏡花 「神鷺之巻」
・・・それから以来習慣が付き、子を産む度毎に必ず助産のお役を勤め、「犬猫の産科病院が出来ればさしずめ院長になれる経歴が出来た、」と大得意だった。 不思議な事にはこれほど大切に可愛がっていたが、この猫には名がなかった。家族は便宜上「白」と呼んで・・・ 内田魯庵 「二葉亭余談」
・・・ こゝに、自由の生む、形態の面白さがあり、押えることのできない強さがあり、爆破があり、また喜びがあるのである。自然の条件に従って、発生し、醗酵するものゝみが、最も創意に富んだ形を未来に決定するのである。それ故に、機械主義的な構成に、また・・・ 小川未明 「常に自然は語る」
・・・しかし、詩を作り、幸福を産むことはできない。強権下には、永遠に、人生の平和はあり得ないごとく。たゞ、純情に謙遜に、自然の意思に従って、真を見んとするところに、最も人生的なる、一切の創造はなされるのであった。 私は、民謡、伝説の訴うる力の・・・ 小川未明 「常に自然は語る」
・・・しかし、お君が翌年の三月男の子を産むと、日を繰ってみて、ひやっとし、結婚してよかったと思った。生れた子は豹一と名づけられた。日本が勝ち、ロシヤが負けたという意味の唄がまだ大阪を風靡していたときのことだった。その年、軽部は五円昇給した。・・・ 織田作之助 「雨」
・・・ などと、何れも浅ましく口拍子よかった中に、誰やら持病に鼻をわずらったらしいのが、げすっぽい鼻声を張り上げて、「やい、そう言うおのれの女房こそ、鷲塚の佐助どんみたいな、アバタの子を生むがええわい」 と呶鳴った。 その途端、一・・・ 織田作之助 「猿飛佐助」
出典:青空文庫