・・・私は私の生き方を生き抜く。身震いするほどに固く決意しました。私は、ひそかによき折を、うかがっていたのであります。いよいよ、お祭りの当日になりました。私たち師弟十三人は丘の上の古い料理屋の、薄暗い二階座敷を借りてお祭りの宴会を開くことにいたし・・・ 太宰治 「駈込み訴え」
・・・戦争のおかげで、やっと、生き抜く力を得たようなものです。もう、子供が二人あります。上が女の子で、ことし五歳になります。下は、男の子で、これは昨年の八月に生れ、まだ何の芸も出来ません。敵機来襲の時には、妻が下の男の子を背負い、私は上の女の子を・・・ 太宰治 「春」
・・・私たち総てが、この数年来経つつある酸苦と犠牲とを、新しい歴史の展開の前夜に起った大なる破産として理解し、同時にそれは生き抜くに価する苦難として照し出してゆく力こそ、悲劇においてなお高貴であり、人間らしい慰めと励ましとにみちている文学精神の本・・・ 宮本百合子 「新日本文学の端緒」
出典:青空文庫