・・・ 戦争成金のほかは、誰しも今は苦しいのだから、自分ひとりの生活苦は言うまいと思って努めて快活のふうを装っていたが、それでも、あまりに心細くて、或る先輩にあてこんな意味の手紙を書いて出した事がある。 拝啓。この手紙は、あなたに何かお願・・・ 太宰治 「十五年間」
・・・ これは大学時代の写真ですが、この頃になると、多少、生活苦に似たものを嘗めているので、顔の表情も、そんなに突飛では無いようですし、服装も、普通の制服制帽で、どこやら既に老い疲れている影さえ見えます。もう、この頃、私は或る女のひとと同棲を・・・ 太宰治 「小さいアルバム」
・・・わたしたちはそのような日本という祖国に生きて、毎日の生活苦と闘いながら同時に人類的なこの苦痛の克服について考えています。 アジアの近代の歴史は、苦しい隷属とそこから解放されようとする闘いの連続でした。印度をはじめとするアジアの諸国は、そ・・・ 宮本百合子 「新しいアジアのために」
・・・ そこで判事や検事は、事件を社会問題としての面で強調して、生活苦ということを主張なさったわけです。けれども、どなたかふれられたように本人は生活苦じゃないといっているんです。そうすれば、あの殺した動機というのは、率直に申しますとつまりやけ・・・ 宮本百合子 「浦和充子の事件に関して」
・・・この生活苦にあえぎ、悪税・物価高にあえぎながら、日本人の大多数がなお無条件に純然たるブルジョア政党、反民主政党を第一位に支持しているのだとすれば、その政治に対する無知と無判断なならわしは救うにかたいと悲しむにちがいない。日本の民衆が、永年の・・・ 宮本百合子 「現代史の蝶つがい」
・・・失業と生活苦とがひとしお深刻になっているきょう。学校へゆけない学童のふえているきょう。人民の生活をこういう状態におとしておく政府が、世界を攪乱する戦争挑発に協力していないという証拠を、わたしたちは、どこに見出すことができるでしょうか。 ・・・ 宮本百合子 「国際婦人デーへのメッセージ」
・・・然し、実際の生活苦などは知らないのだから、最も自分の想像、期待と調和する理想主義を、知識として呼び出し、自己の情熱の名づけ親とするよりほかありません。感激熱中こそ乏しくはありませんでしたが、当時の生活には著しく、精神的訓練が欠如していました・・・ 宮本百合子 「われを省みる」
出典:青空文庫