・・・今日になってみると、開墾しうべきところはたいてい開墾されて、立派に生産に役立つ土地になっていますが、開墾当初のことを考えると、一時代時代が隔たっているような感じがします。ここから見渡すことのできる一面の土地は、丈け高い熊笹と雑草の生い茂った・・・ 有島武郎 「小作人への告別」
・・・ 第二は天然の無限的生産力を示します。富は大陸にもあります、島嶼にもあります。沃野にもあります、沙漠にもあります。大陸の主かならずしも富者ではありません。小島の所有者かならずしも貧者ではありません。善くこれを開発すれば小島も能く大陸に勝・・・ 内村鑑三 「デンマルク国の話」
・・・印刷術と製本術とが、機械でされるようになって以来、生産の簡易化は、全く書物に対する考え方を変えてしまいました。同じく、文化を名目とはするものゝ、珍らしい、特志の出版家でもないかぎり、出版は、資本主義機構上の企業であり、商業であり、商品であり・・・ 小川未明 「書を愛して書を持たず」
・・・薪や炭や、石炭を生産地から直接輸入して、その卸や、小売りをしているので、あるときは、駅に到着した荷物の上げ下ろしを監督したり、またリヤカーに積んで、小売り先へ運ぶこともあれば、日に幾たびとなく自転車につけて、得意先に届けなければならぬことも・・・ 小川未明 「空晴れて」
・・・ たとえ、それがために、現在のごとき、燦然たる機械文明は見られなくとも、また大量的な生産機関に発達しなくとも、そのかわり、相殺し、相陥ることから全く救われていたと言える。しかるに、資本主義的文化によって、人類の富は、平等を欠き、平和は、・・・ 小川未明 「単純化は唯一の武器だ」
・・・この悪い風潮は黙々として、自己の生産に従事しつゝある、あらゆる階級にまで瀰漫せんとしつゝあります。 私は、児童芸術に没頭していますが、真に、児童の世界を擁護し、児童のためにつくす施設に乏しいのを感ぜずにいられません。浅薄なイデオロギーに・・・ 小川未明 「文化線の低下」
・・・彼等は、この辛苦の生産品を市場にまで送らなければならないのです。 都会人のある者は、彼等の辛苦について、労働については、あまり考えないで、安いとか、高いとかいって、商人の手から買い、安いければ、安いで無考えに消費するまでのことです。・・・ 小川未明 「街を行くまゝに感ず」
・・・「もっとも新券、新券と珍らしがって騒いでるのも、今のうちだよ。三月もすれば、前と同じだ。新券のインフレになる」「結局金融措置というのは人騒がせだな」「生産が伴わねば、どんな手を打っても同じだ。しかもこんどの手は生産を一時的にせよ・・・ 織田作之助 「郷愁」
・・・たとえば唯物史観的な倫理学は一定の生産関係、ある階級に妥当なる道徳のほかは認めないであろう。また種々に道徳を比較し、分析し、記述することを任務とするという倫理学もある。確かにわれわれが倫理的な問いを持つにいたった痛切な原因にはこの時と処と人・・・ 倉田百三 「学生と教養」
・・・ 対岸には、搾取のない生産と、新しい社会主義社会の建設と、労働者が、自分たちのための労働を、行いうる地球上たった一つのプロレタリアートの国があった。赤い布で髪をしばった若い女が、男のような活溌な足どりで歩いている。ポチカレオへ赤い貨車が・・・ 黒島伝治 「国境」
出典:青空文庫