・・・ 何処となく荒涼とした粗野な自由な感じ、それは生面の人を威脅するものではあるかも知れないけれども、住み慣れたものには捨て難い蠱惑だ。あすこに住まっていると自分というものがはっきりして来るかに思われる。艱難に対しての或る勇気が生れ出て来る・・・ 有島武郎 「北海道に就いての印象」
・・・斯くて人間性の生面に深く徹して行くことを忘れない。 今の我が文壇には右の如き心持ちを懐いて筆を執っているものが果して幾人あるか。徒らに生活に妥協して、自ら深く生に徹して行こうとする勇気を欠いてはいないか。容易なだらけ切った気持ちで有るが・・・ 小川未明 「囚われたる現文壇」
・・・川端竜子氏の『慈悲光礼讃』は、この問題に一つの解案を与えるものであるが、我々はこれを日本画の新しい生面として喜ぶことができるだろうか。薄明かりの坂路から怪物のように現われて来る逞しい牛の姿、前景に群がれる小さき雑草、頂上を黄橙色に照らされた・・・ 和辻哲郎 「院展遠望」
出典:青空文庫