・・・それでも老父は、「耕太郎可愛さにつき金一円さしあげ候、以来は申越しこれなきよう願いあげ候」といったような手紙の中に、一円二円と継母に隠した金を入れて寄越した。「俺もせめて二三年前に帰ってくるとよかった。そして小面倒な家族関係で揉・・・ 葛西善蔵 「贋物」
・・・ その翌日村長は長文の手紙を東京なる高山法学士の許に送った、その文の意味は次ぎの如くである、―― 御申越し以来一度も書面を出さなかったのは、富岡老人に一条を話すべき機会が無かったからである。 先日の御手紙には富岡先生と富岡氏との・・・ 国木田独歩 「富岡先生」
・・・貴兄が小生の友情を信じて寄せた申越しに対し重ね重ねすまない。しかし出来ないことをねちねちしているのも嫌だから早速この手紙を書いた次第。悪く思わないでくれ。小生昨今、文学にしばらく遠ざかっているので、貴兄の活躍ぶりも詳しくは接していないが、貴・・・ 太宰治 「虚構の春」
・・・老人 何と申し越してござりますの?王 下らん事じゃ、人間の申す事を申しよこいたまでの事なのだから。そなたの様にもう年を取ったものはあまり人間らしい人間の申す事は聞かなんだ方がよいのじゃ。老人 わたくしの様に年取ったものは人々が・・・ 宮本百合子 「胚胎(二幕四場)」
出典:青空文庫