どんな作家でも、自分の書く本が立派にこしらえられ、そして見事に売れることをよろこびとする。しかし、その自然なこころもちは、時代のいろいろの関係で、あながち、芸術的に発露されにくい。何しろ、出版企業というものに結びついている・・・ 宮本百合子 「豪華版」
・・・只人間生活の歓び確信というものの、最も鋭い、最もニュアンスに富んだ、最も出来合いでないものの感じ得る陰翳――それによって明暗が益生彩を放つところの、動く生命力の発露として、苦痛をも亦愛し得るだけ生活的です。私があなたにあげる手紙の中で、我々・・・ 宮本百合子 「獄中への手紙」
・・・兎に角ここには、これだけ現代女性の云うこと、思うこと、欲すること――あらゆる角度に於て内外の生活に連関した発露がある。筆者の態度が大体極めて粗笨であり、一時的であり、編輯された動機は商売気でも、何等かの意味で日本女性の一九二六年代のグリムプ・・・ 宮本百合子 「是は現実的な感想」
・・・だから、その自然な自分には分らないという自覚が、次の段階では判ると思えたものに率直にとりつかせる動機となって、直接間接に日本の文化や文学の新しい潮にかかわりあってゆく力の発露となったのであったと思う。 百円札をもって、これだけ本を下・・・ 宮本百合子 「今日の読者の性格」
・・・そして、こういう作家の態度は、当時の気流によって、その作家たちの正直さ、人間らしさ、詐りなさの発露という風にうけとられ、評価されたのである。 日本におけるプロレタリア文化・文学運動の全体関係においての敗北の時期にあたって、当時の多くのプ・・・ 宮本百合子 「今日の文学の展望」
・・・文学的直観の表現ではなく、かんでわかる表現でなく、文学のそとのあらゆる市民に、社会現象の一つとして、人間の創造的な作業の一つの発露として、文学現象をわからせるための努力をした。 そのことでは、うちけすことのできない貢献をしている。文学は・・・ 宮本百合子 「作家の経験」
・・・日本では男でさえ、詩情は青春の発露のように思い、またその程度の人生感銘の精神しかもたない例が多い。詩人らしいということは、線が細いと同義語のようにつかわれ、いくらか鋭い感受性といささかの主観のつよさと、早期の枯凋とを意味するとしたら、それは・・・ 宮本百合子 「『静かなる愛』と『諸国の天女』」
・・・歴史のぎりぎりのところへぴったり肩を入れて、押しつ押されつ生きること、摩擦に堪えその意味を知ること、その野暮さのうちにどのような美の可能、人間性の発露があるか。人間を人間たらしめ、芸術を芸術たらしめる情熱は常にその外見において粋であることは・・・ 宮本百合子 「十月の文芸時評」
・・・当時社会のきびしい階級、身分制度によって動かすことの出来なかった堰で、互の人間的発露を阻まれた男女、親子、親友などのいきさつが浄瑠璃者の深情綿々とした抒情性で訴えられている。義理と人情のせき合う緊迫が近松の文学の一つのキイ・ノートであった。・・・ 宮本百合子 「女性の歴史」
・・・を真価以上に広告し、すべての他人を凌駕し得たりと自負するに至ッては最も醜怪、最も卑怯なる人格の発露である。虚栄の権化は時に人を威圧して崇敬の念を起こさしむ。神にも近しと尊ぶ人格は時に空虚である。真の偉人は飾らずして偉である。付け焼き刃に白眼・・・ 和辻哲郎 「霊的本能主義」
出典:青空文庫