・・・心太さかしまに銀河三千尺夕顔のそれは髑髏か鉢叩蝸牛の住はてし宿やうつせ貝 金扇に卯花画白かねの卯花もさくや井出の里鴛鴦や国師の沓も錦革あたまから蒲団かぶれば海鼠かな水仙や鵙の草茎花咲きぬ ある隠士のもとに・・・ 正岡子規 「俳人蕪村」
・・・ とおくの百舌の声なのか、北上川の瀬の音か、どこかで豆を箕にかけるのか、ふたりでいろいろ考えながら、だまって聴いてみましたが、やっぱりどれでもないようでした。 たしかにどこかで、ざわっざわっと箒の音がきこえたのです。 も一どこっ・・・ 宮沢賢治 「ざしき童子のはなし」
・・・ ですから渡り鳥のかっこうや百舌も、又小さなみそさざいや目白もみんなこの木に停まりました。ただもしも若い鷹などが来ているときは小さな鳥は遠くからそれを見付けて決して近くへ寄りませんでした。 この木に二人の友達がありました。一人は丁度・・・ 宮沢賢治 「土神ときつね」
・・・向うの楊の木から、まるでまるで百疋ばかりの百舌が、一ぺんに飛び立って、一かたまりになって北の方へかけて行くのです。その塊は波のようにゆれて、ぎらぎらする雲の下を行きましたが、俄かに向うの五本目の大きな楊の上まで行くと、本当に磁石に吸い込まれ・・・ 宮沢賢治 「鳥をとるやなぎ」
・・・小禽とは、雀、山雀、四十雀、ひわ、百舌、みそさざい、かけす、つぐみ、すべて形小にして、力ないものは、みな小禽じゃ。その形小さく力無い鳥の家に参るというのじゃが、参るというてもただ訪ねて参るでもなければ、遊びに参るでもないじゃ、内に深く残忍の・・・ 宮沢賢治 「二十六夜」
・・・ 百舌鳥が鳴いていた。空にある白い雲が近くに感じられた。みのえの体のまわりにある草の中に、黒い実のついたのがあった。葉っぱが紅くなったのもある。一匹のテントウ虫が地面から這い上って、青い細い草をのぼった。自分の体の重みで葉っぱを揺ら揺ら・・・ 宮本百合子 「未開な風景」
・・・青玉のような果が鈴なりに成った梅の樹の何処かで、百舌鳥の雛っ子が盛に鳴き立てるのを聞きながら、自分は庭先の「うこぎ」の芽の延び過ぎたのを樹鋏みで切って居た。 東京では如何うだか、東北地方では、「うこぎ」を生垣にして置いて、春先に成ると柔・・・ 宮本百合子 「麦畑」
出典:青空文庫