・・・「最後に小生は目下我邦における学問文芸の両界に通ずる趨勢に鑒みて、現今の博士制度の功少くして弊多き事を信ずる一人なる事を茲に言明致します。「右大臣に御伝えを願います。学位記は再応御手許まで御返付致します。敬具」 要するに文部大臣・・・ 夏目漱石 「博士問題の成行」
・・・ただいたずらに目下の私に煩悶するのみ。けだしそのゆえは何ぞや。直接のために眼光をおおわれて、地位の利害に眩すればなり。今、世の人心として、人々ただちに相接すれば、必ず他の短を見て、その長を見ず、己れに求むること軽くして人に求むること多きを常・・・ 福沢諭吉 「学者安心論」
・・・と題して、連日の『時事新報』社説に登録したるが、大いに学者ならびに政治家の注意を惹き来りて、目下正に世論実際の一問題となれり。よって今、論者諸賢のため全篇通読の便利を計り、これを重刊して一冊子となすという。 明治一六年二月編者識と・・・ 福沢諭吉 「学問の独立」
・・・世人の改新を促して自から謹ましめ以て国の体面を清潔にするは、何は扨置き目下の緊急事なりとて、いよ/\宿論発表の時機到来を認め、昨年八月中より遽に筆を執り、僅々三十日足らずの間に稿を脱したる次第なりと言う。左れば女大学評論及び新女大学の二篇は・・・ 福沢諭吉 「新女大学」
・・・スウルヂェエにしろ、ジネストにしろ、いずれも誰にも知られない平民的な苗字で目下自分の交際している貴夫人何々の名に比べてみれば、すこぶる殺風景である。しかしこの平民的な苗字が自分の中心を聳動して、過ぎ去った初恋の甘い記念を喚び起すことは争われ・・・ 著:プレヴォーマルセル 訳:森鴎外 「田舎」
・・・上海その他へ出かけて、目下戦線ルポルタージュ専門の如き観を呈している林房雄氏が上述の提唱の首脳であったことは説明を要しない。文芸懇話会賞というものをその作「兄いもうと」に対しておくられた室生犀星氏は、自身の如く文学の砦にこもることを得たもの・・・ 宮本百合子 「明日の言葉」
・・・又は、目下の露国社会状態に反感を持ち、些の愛も感じられない人々。どうぞ、時々外国の新聞や雑誌に現れる、彼等の恐ろしい飢餓の有様を見て下さい。 あの痩せ衰え骸骨のようになったロシアの子供等が、往来に――恐らくこれも飢から――斃死した駄馬の・・・ 宮本百合子 「アワァビット」
・・・第二部の正誤は私の作ったのが目下富山房の手にある。これも紙型は象嵌で直し、未正誤本には正誤表を添える積でいたところが、世間の誅求が急なので、未正誤本が正誤表を添えずに売り出された。現に世間に出ているのも富山房にあるのも、第二部は悉くこの未正・・・ 森鴎外 「訳本ファウストについて」
・・・勝利を得るまでの分裂した生活の惨めさは、目下の自分の力ではいかんともし難い。 私は一つのことを悟り得た。迷いと屈托とに遅滞しているゆえをもって、直ちにその人の人格を卑しめてはいけない。態度の純一のゆえに、直ちにその人の人格を過大視しては・・・ 和辻哲郎 「生きること作ること」
・・・ここに人類の意志を明らかにし、真実の価値の階級を樹立することは、大いなる価値の実現のために、従って人類のために、目下緊急の大事である。 なお岸田君の著書に著しい「内なる美」、「装飾」、「写実」等の考え方についても、一言付加しておく必要を・・・ 和辻哲郎 「『劉生画集及芸術観』について」
出典:青空文庫