・・・たね子は細い膝の上にそれ等の本を開いたまま、どう云う小説を読む時よりも一生懸命に目次を辿って行った。「木綿及び麻織物洗濯。ハンケチ、前掛、足袋、食卓掛、ナプキン、レエス、……「敷物。畳、絨毯、リノリウム、コオクカアペト……「台所・・・ 芥川竜之介 「たね子の憂鬱」
・・・この本は目次の第何章かに「恐しい四つの敵、――疑惑、恐怖、驕慢、官能的欲望」と云う言葉を並べていた。僕はこう云う言葉を見るが早いか、一層反抗的精神の起るのを感じた。それ等の敵と呼ばれるものは少くとも僕には感受性や理智の異名に外ならなかった。・・・ 芥川竜之介 「歯車」
・・・その頃の日本の雑誌は専門のものも目次ぐらいは一と通り目を通していたが、鴎外と北尾氏との論争はドノ雑誌でも見なかったので、ドコの雑誌で発表しているかと訊くと、独逸の何とかいう学会の雑誌でだといった。日本人同士が独逸の雑誌で論難するというは如何・・・ 内田魯庵 「鴎外博士の追憶」
・・・ これらの作品はすべて、私自身にとっても思い出の深い作品ばかりであり、いまその目次を一つ一つ書き写していたら、世にめずらしい宝石を一つ一つ置き並べるような気持がした。 朽助は、乳母車を押しながら、しばしば立ちどまって帯をしめなおす癖・・・ 太宰治 「『井伏鱒二選集』後記」
・・・いい短篇小説が、たくさん在ります。目次を見ましょう。「玉を懐いて罪あり」HOFFMANN「悪因縁」 KLEIST「地震」 KLEIST それにつづいて、四十篇くらい、みんな面白そうな題の短篇小説ばかり、ずら・・・ 太宰治 「女の決闘」
・・・人が見たらなんでもないこの貧しい記録も自分にとってはあらゆる忘れがたい貴重な経験の総目次になるように思われる。 寺田寅彦 「病室の花」
・・・ 目次と…………その説明 (中略、ここに「注文の多い料理店」の中扉のカットを挿入 1 どんぐりと山猫山猫拝と書いたおかしな葉書が来たので、こどもが山の風の中へ出かけて行くはなし。必ず比較をされなければならないいまの・・・ 宮沢賢治 「『注文の多い料理店』新刊案内」
・・・という一冊の本が目につき、目次を見ると、文章の類型と作家という章に谷崎潤一郎氏と志賀直哉氏という項があり、今度の本の著者波多野完治氏が当時その研究を一部発表されたものであったことがわかったのであった。 新しくされた興味をもって、その本の・・・ 宮本百合子 「芸術が必要とする科学」
・・・これはまじめに日本の社会の推移を基礎にした精神史のみなおしという決心のもとにすすめられるべき仕事だと思う。目次のゲラをみると、これまでの既成文学史と同様に、写実主義時代、浪漫主義時代、自然主義時代と順を追って、プロレタリア文学、モダニズムと・・・ 宮本百合子 「「現代日本小説大系」刊行委員会への希望」
・・・その表題に一寸母上が何故其を送ってよこされたかが疑われた、が、目次を見て、其中に自分の事が書いてあるらしいので、送られた理由が分った。 読んで見ると、好意のある文句で、自分の未来を期待して居る文句がある。 多分母上は其を見て、私にも・・・ 宮本百合子 「樹蔭雑記」
出典:青空文庫