・・・冴返るなどと云う時節でもないに馬鹿馬鹿しいと外套の襟を立てて盲唖学校の前から植物園の横をだらだらと下りた時、どこで撞く鐘だか夜の中に波を描いて、静かな空をうねりながら来る。十一時だなと思う。――時の鐘は誰が発明したものか知らん。今までは気が・・・ 夏目漱石 「琴のそら音」
・・・ 私共に応待した卓子の前にいた男は、立って行って、盲唖学校の近所にあるという一軒の家をサジェストした。「場所は分りますか? 電車分りますか?」「分ります。私行ったこと、よくありますから。――然し、いやなことありますまいね」「・・・ 宮本百合子 「思い出すこと」
・・・宗教団体、養老院、盲唖院、皇后が保護者となっている馬の休養所まで等しく「熱心に」「火急に」寄附を求めている。 ミス・エラリン・メイシーは社会組織のひびから発するこの!《エクスクラメーション》を事務家的才能で把握し婦人雑誌に写真ののる成功・・・ 宮本百合子 「ロンドン一九二九年」
出典:青空文庫