・・・型、ガルボ型、ディートリヒ型、入江型、夏川型等いろいろさまざまな日本婦人に可能な容貌の類型の標本を見学するには、こうした一様なユニフォームを着けた、そうしてまだ粉飾や媚態によって自然を隠蔽しない生地の相貌の収集され展観されている場所にしくも・・・ 寺田寅彦 「自由画稿」
・・・ もしも自然というものが地球上どこでも同じ相貌を呈しているものとしたら、日本の自然も外国の自然も同じであるはずであって、従って上記のごとき問題の内容吟味は不必要であるが、しかし実際には自然の相貌が至るところむしろ驚くべき多様多彩の変化を・・・ 寺田寅彦 「日本人の自然観」
・・・これらはそういう自我の主観的な感情の動きをさすのではなくて、事物の表面の外殻を破ったその奥底に存在する真の本体を正しく認める時に当然認めらるべき物の本情の相貌をさしていうのである。これを認めるにはとらわれぬ心が必要である。たとえば仏教思想の・・・ 寺田寅彦 「俳諧の本質的概論」
・・・粗野にして滑稽なる相貌をもち、遅鈍にして大食であり、あらゆるデリカシーというものを完全に欠如した性格であった。従って家内じゅうのだれにも格別に愛せられなかった。小さい時分は一家じゅうの寵児である「三毛」の遊戯の相手としての「道化師」として存・・・ 寺田寅彦 「備忘録」
・・・結局の目的はやはりこれらを量的分析にかけるにあるが、現象のいかなる相貌をつかまえてこれにそのような分析を加えるべきかの手掛かりを得るに苦しむのが常である。それが困難であればこそ従来の自然探究者から選み残され継子扱いにされて昔のままにわれわれ・・・ 寺田寅彦 「量的と質的と統計的と」
・・・そうした時は屹度上脣の右の方がびくびくと釣って恐ろしい相貌になる。彼の怒は蝮蛇の怒と同一状態である。蝮蛇は之を路傍に見出した時土塊でも木片でも人が之を投げつければ即時にくるくると捲いて決して其所を動かない。そうして扁平な頭をぶるぶると擡げる・・・ 長塚節 「太十と其犬」
・・・文学の歩みがその社会的相関の相貌をつよく反映して、種々な交錯の中に推移してゆかなければならないことも亦当然であろう。 最近の数ヵ月間に、作家による戦争のルポルタージュが前面におし出されて来ている。一九三七年の日本文学について語るとき、こ・・・ 宮本百合子 「明日の言葉」
・・・ 沙漠という自然の事情と、それを生産的に開発しようとする人間の意志、土地の相貌が新しくなるにつれその労作の過程を通って人間が生活感情、世界観を新にして行く現実の例はソヴェト映画の「トルキシブ」ではっきり語られている。「トルキシブ」ほど有・・・ 宮本百合子 「イタリー芸術に在る一つの問題」
・・・ いくらか犬の相貌がやわらいで秋が近づいた。今度は蚤を掻く音が高くきこえるようになった。見ているとそれほどでないのに、姿の見えない離れたところできくと、それは大きい凄じい掻き音である。それでもまだ人は近づけず、景清らしく秋の日に照されて・・・ 宮本百合子 「犬三態」
・・・日本に於てはロマンチシズムが今日どういう役割を果しているか、ということにさえ独特な相貌が現れているのである。 私の任務は、この興味ふかく又重大な今日の文学を語ることである。五十枚ほどの枚数の中に、果してよく描きつくせるであろうか。私の文・・・ 宮本百合子 「意味深き今日の日本文学の相貌を」
出典:青空文庫