・・・白麻のハンチング、赤皮の短靴、口をきゅっと引きしめて颯爽と歩き出した。あまりに典雅で、滑稽であった。からかってみたくなった。私は、当時退屈し切っていたのである。「おい、おい、滝谷君。」トランクの名札に滝谷と書かれて在ったから、そう呼んだ・・・ 太宰治 「座興に非ず」
・・・ 海に沿った雪道を、私はゴム長靴で、小川君はきゅっきゅっと鳴る赤皮の短靴で、ぶらぶら歩きながら、「軍隊では、ずいぶん殴られましてね。」「そりゃ、そうだろう。僕だって君を、殴ってやろうかと思う事があるんだもの。」「小生意気に見・・・ 太宰治 「母」
・・・非番の老近侍は茶の上着を着て白と黒の縞のキッチリのズボン白い飾りのついた短靴をはいて飾りのついた剣をつるす。ふちのない上着と同色の帽子についた王家の紋章が動く毎に光る。第二の女の声は陽気で、第一第三の女はふくみ声でゆっくりと口をきく・・・ 宮本百合子 「胚胎(二幕四場)」
出典:青空文庫