・・・風雲児的な近藤、土方が戦いを一身の英雄心・栄達心と結びつけて行動したことから大局を破局に導いたところ、また甲陽鎮撫隊の構成の様々な心理的要素などに作者は軽く筆を突きすすめてはいるが、読後の印象は一種の読物の域を脱しない作品である。新講談の作・・・ 宮本百合子 「文芸時評」
・・・ 最近の十数年間、特に太平洋戦争がはじまってからの五年間にわたしたちの経験した辛酸の内容をつまびらかに観察すれば、最後のあがきにおいて以上の諸関係がどんな程度にまで亢進し、ついに破局したか、明瞭である。 日本の社会心理の最底辺にとっ・・・ 宮本百合子 「平和への荷役」
・・・モラトリアムをしかなければならないということは、とりも直さず、日本全国の正直な人民生計は赤字の破局で、貯金も使い果した危機を語っている。だからこそ、モラトリアムではなかろうか。そうだとすれば、どこの家の家計簿も、やすやすと世帯主三〇〇円、一・・・ 宮本百合子 「モラトリアム質疑」
・・・従来の生きかたが誤りであったことを自覚したとき、更に誤りを重ねまい為には破局をも忍んだ「津村教授」の熱意はない。この作品で、作者が「或意味では幸福な人」としている睦子の生涯というものも、誤った人生の発足から虚無的な生活破綻に陥り、只その壊滅・・・ 宮本百合子 「山本有三氏の境地」
・・・この社会にともに働き、ともに生きる男と女とが、その基本的な人間としての権利において互に等しいものであるというわかりきったことが、現世紀の半ばになって、しかも、こんなに深刻な破局をとおして、やっと成文にかかれたということは、むしろおどろくべき・・・ 宮本百合子 「離婚について」
・・・ 若い敏感な読者たちは、マリイがアンリイを見知り、心をひかれ、だが破局に終るまでのマリイの心の推移から、どのようにねうちの高いものを学んで来るであろうか。アンリイがデロアの息子であると知って、心から愛するエエメ教姉の話をしたことを愧じる・・・ 宮本百合子 「若い婦人のための書棚」
・・・浅く軽い恋愛、または情痴的な破局的な恋愛、あるいは恋愛期だけで消滅して永年の結婚生活にたえぬ要素の上に立つ恋愛は、研究するまでもなく数も多いであろう。恋愛を夫婦愛の中核として見て、その発展と成熟との間におこる種々の問題こそ研究さるべきである・・・ 宮本百合子 「若き世代への恋愛論」
・・・西郷隆盛の政治的破局の原因となった征韓論は、その一つのはっきりした現われであった。 維新当時、それらの基礎薄弱な資本と地主の支配者たちが、外交関係において、一つの新しい権威を賦与するために、何かの形で主権者を必要とした。その主権者として・・・ 宮本百合子 「私たちの建設」
・・・ 弓子さんの死が、死に到るまでそのような実行力のない実際生活で導かれたとすれば、死は、受身に受身に内屈せられた感情の破局として全くマイナスの社会的意味しか持たないと信じます。 私たちが弓子さんの現実から汲みとり得る唯一の教訓は、弓子・・・ 宮本百合子 「私も一人の女として」
出典:青空文庫