・・・ それぞれの国の民族が婦人や子供、としより連まで固有の服装に身をかざって、その土地伝統の祭りを祝うような日の光景は、はた目にもおもしろく愉しいものだ。けれども、その美しさにしろたのしさにしろ、その民族或いはその人々が実際には半ば奴隷・・・ 宮本百合子 「この三つのことば」
・・・そればかりでなく、出てゆく当人も出入りにつけて、自分を祝う旗のとなりに語られている事の在りようを目から心へ刻み直される始末である。 町会か或は在郷軍人会の、そういうところの人々がより合って、名誉を記念する方法を講じたとき、こういう情景が・・・ 宮本百合子 「今日の耳目」
・・・ それから数年の間、やはり正月は格別な感じをおこさせずに過ぎましたが、自分としての生活にいろいろの波瀾が生じて、来る一年はどんな内容をもって現れるのか予測もつかないようになってからは、却って新年を祝う気分になったのは面白いことだと思いま・・・ 宮本百合子 「歳々是好年」
・・・その来ない人達は、旧の正月を祝うのである。東京に居て他家へ行ったり来られたりしてすごす七草まで位の日は大変早く、目まぐるしいほどで立って行くけれ共、此処の一日は、時間にのび縮みはない筈ながら、ゆるゆると立って行く。 東京の急がしい渦が巻・・・ 宮本百合子 「農村」
・・・美くしい形にきられたストーブには富と幸福を祝うように盛に火がもえて居ます。マーブルのような女の美くしい頬にてりそってチラチラして居ます。女「寒かったでしょう、早くあったかくなってそして人の世の話をきかせてちょうだい」 女はぬれたみど・・・ 宮本百合子 「無題(一)」
・・・「これがお前の門出を祝うお酒だよ」こう言って一口飲んで弟にさした。 弟は椀を飲み干した。「そんなら姉えさん、ご機嫌よう。きっと人に見つからずに、中山まで参ります」 厨子王は十歩ばかり残っていた坂道を、一走りに駆け降りて、沼に沿うて街・・・ 森鴎外 「山椒大夫」
出典:青空文庫