・・・そして今にも襟髪を掴むか、今にも崖から突き落とすか、そんな恐怖で息も止まりそうになっているんです。しかし僕はやっぱり窓から眼を離さない。そりゃそんなときはもうどうなってもいいというような気持ですね。また一方ではそれがたいていは僕の気のせいだ・・・ 梶井基次郎 「ある崖上の感情」
・・・ アンナ・ステンのナナが酒場でうるさく付きまとう酔っぱらいの青年士官を泉水に突き落とす場面にもやはり一種の俳諧がある。劇場での初演の歌の歌い方と顔の表情とに序破急があってちゃんとまとまっている。そのほかにはたいしておもしろいと思うところ・・・ 寺田寅彦 「映画雑感(4[#「4」はローマ数字、1-13-24])」
出典:青空文庫