・・・象が頭を上げて見ると、赤い着物の童子が立って、硯と紙を捧げていた。象は早速手紙を書いた。「ぼくはずいぶん眼にあっている。みんなで出て来て助けてくれ。」 童子はすぐに手紙をもって、林の方へあるいて行った。 赤衣の童子が、そうして山・・・ 宮沢賢治 「オツベルと象」
・・・「……童子のです。」「童子ってどう云う方ですか。」「雁の童子と仰っしゃるのは。」老人は食器をしまい、屈んで泉の水をすくい、きれいに口をそそいでからまた云いました。「雁の童子と仰っしゃるのは、まるでこの頃あった昔ばなしのような・・・ 宮沢賢治 「雁の童子」
ぼくらの方の、ざしき童子のはなしです。 あかるいひるま、みんなが山へはたらきに出て、こどもがふたり、庭であそんでおりました。大きな家にだれもおりませんでしたから、そこらはしんとしています。 ところが家の、どこか・・・ 宮沢賢治 「ざしき童子のはなし」
・・・雪狼のうしろから白熊の毛皮の三角帽子をあみだにかぶり、顔を苹果のようにかがやかしながら、雪童子がゆっくり歩いて来ました。 雪狼どもは頭をふってくるりとまわり、またまっ赤な舌を吐いて走りました。「カシオピイア、 もう水仙が咲き出す・・・ 宮沢賢治 「水仙月の四日」
・・・や雪狼、雪童子とのものがたり。 6 山男の四月四月のかれ草の中にねころんだ山男の夢です。烏の北斗七星といっしょに、一つの小さなこころの種子を有ちます。 7 かしわばやしの夜桃色の大きな月はだんだん小さく青じろ・・・ 宮沢賢治 「『注文の多い料理店』新刊案内」
双子の星 一 天の川の西の岸にすぎなの胞子ほどの小さな二つの星が見えます。あれはチュンセ童子とポウセ童子という双子のお星さまの住んでいる小さな水精のお宮です。 このすきとおる二つのお宮は、まっすぐに向い合っ・・・ 宮沢賢治 「双子の星」
・・・ 同じ作者によって書かれた「童子」、「村の地主」などの作品にもふれることであるが、われわれは広汎な意味でのプロレタリア文学における自然描写の問題、方言の問題などについてもリアリズムの理解を一層深めなければならない。私はこの力作の検討の上・・・ 宮本百合子 「作家への課題」
・・・即ち、それぞれの筆者の主観と感情の傾向に支配されて、ある文章は無垢な天の童子の進軍の姿のように、ある文章は漢詩朗吟風な感傷に於て書かれた。そして、そのいずれもが等しく溢れさせているのは異常な環境のために一層まざまざとした筆者の個性の色調であ・・・ 宮本百合子 「昭和の十四年間」
出典:青空文庫