・・・こゝに童話文学の発生がある所以だ。この殆んど神秘的な説明し難い感情こそ、土と人との連結でもあるのだ。 どこの村落にせよ、まだ、あまり都会的害毒に侵されざるかぎり、また、彼等が土を耕している人間であるかぎり、自然発生的に、その村に結ばれた・・・ 小川未明 「彼等流浪す」
・・・ すべての空想が、その華麗な花と咲くためには、豊饒の現実を温床としなければならぬごとく、現実に発生しない童話は、すでに生気を失ったものです。過去のお伽噺が、その当時の生活、経験に調和して生れたものであるなら、新しい童話は、今日の生活から・・・ 小川未明 「新童話論」
・・・ 芸術は、ほんとうに現実に立脚するものです。童話は、芸術中の芸術であります。虚無の自然と生死する人生とを関連する不思議な鍵です。芸術の中でも、童話は小説などと異って、直ちに、現実の生命に飛び込む魔術を有しています。 童話は、全く、純・・・ 小川未明 「『小さな草と太陽』序」
・・・ かりに、書くかわりに、語るとして、童話について考えて見ます。私が、何か子供達に向ってお話をするとしたら、まず、それがどんな子供達であるかを知ろうとするでしょう。次に、いくつ位であるかを見ます。それによって話を選び、よく分るようにしたい・・・ 小川未明 「童話を書く時の心」
・・・夏の日郊外の植木屋を訪ねて、高山植物を求め帰り道に、頭上高く飛ぶ白雲を見て、この草の生えていた岩石重畳たる峻嶺を想像して、無心の草と雲をなつかしく思い、童話の詩材としたこともありました。一生のうちには、山へもいつか上る機会があるように漠然と・・・ 小川未明 「春風遍し」
・・・という作品であった。童話だと思って読んだのではない。当時すでに私は、かなりの小説通を以てひそかに自任していたのである。そうして、「山椒魚」に接して、私は埋もれたる無名不遇の天才を発見したと思って興奮したのである。 嘘ではないか? 太宰は・・・ 太宰治 「『井伏鱒二選集』後記」
・・・職場にいた頃、機関雑誌に僕はミューレンの焼き直し童話や、片岡鉄兵氏ばりのプロレタリア小説を書いていました。十銭で買った『カラマゾーフの兄弟』の感激もありましたろう。貧乏大学生の話、殊に嫁を貰ってからの兄との遠慮は、ぼくにまた幼年時からの理想・・・ 太宰治 「虚構の春」
・・・日本のお伽噺よりも、外国の童話が好きであった。「三つの予言」というのであったか、「四つの予言」というのであったかいまは忘れたが、お前は何歳で獅子に救われ、何歳で強敵に逢い、何歳で乞食になり、などという予言を受けて、ちっともそれを信じなかった・・・ 太宰治 「苦悩の年鑑」
・・・所蔵の童話の本、全部を投げ打っても、その東の横綱と交換したいと思っていたにちがいない。東の横綱は、どこのメンコ屋にも無かった。友だちみんなに聞いてまわっても無かった。そのとき、君が、盗んじゃった。君はそのメンコを調べてみて、その男の子の無念・・・ 太宰治 「春の盗賊」
・・・胸をどきどきさせて、アンデルセン童話集、グリム物語、ホオムズの冒険などを読み漁った。あちこちから盗んで、どうやら、まとめた。 ――むかし北の国の森の中に、おそろしい魔法使いの婆さんが住んでいました。実に、悪い醜い婆さんでありましたが、一・・・ 太宰治 「ろまん燈籠」
出典:青空文庫