・・・さればわたくしの江戸趣味は米国好事家の後塵を追うもので、自分の発見ではない。明治四十一年に帰朝した当時浮世絵を鑑賞する人はなお稀であった。小島烏水氏はたしか米国におられたので、日本では宮武外骨氏を以てこの道の先知者となすべきであろう。東京市・・・ 永井荷風 「正宗谷崎両氏の批評に答う」
・・・何でも米国帰りの人とか聞いていました。――それで、もしその時にその米国帰りの人が採用されずに、この私がまぐれ当りに学習院の教師になって、しかも今日まで永続していたなら、こうした鄭重なお招きを受けて、高い所からあなたがたにお話をする機会もつい・・・ 夏目漱石 「私の個人主義」
・・・本年春の頃或る米国の貴婦人が我国に来遊して日本の習俗を見聞する中に、妻妾同居云々の談を聞て初の程は大に疑いしが、遂に事実の実を知り得て乃ち云く、自分は既に証明を得たれども、扨帰国の上これを婦人社会の朋友に語るも容易に信ずる者なく、却て自分を・・・ 福沢諭吉 「女大学評論」
・・・(米人のわれに負けたるをくやしがりて幾度も仕合を挑むはほとんど国辱この技の我邦に伝わりし来歴は詳かにこれを知らねどもあるいはいう元新橋鉄道局技師米国より帰りてこれを新橋鉄道局の職員間に伝えたるを始とすとかや。(明治十四、五年の頃それよりして・・・ 正岡子規 「ベースボール」
・・・半官的なギャラップ博士の米国世論調査所の示したこのたびの失敗は、世界の世論調査法に大きい教訓となった。ギャラップの世論調査所員の大多数は女子で、アンケートの送りさきは彼女たちの任意とされていた。彼女たちが労働者や下層民をさけたために、民主党・・・ 宮本百合子 「新しい潮」
・・・ とにかく、米国人は一般からコムマーシャールの方を多く持ち、日本人は名人気質の方を持っているように私には思われました。そして、米国では日本なぞよりも執筆者が数からいっても割合からいっても遙に多いが、その執筆者も或る雑誌が買ってくれている・・・ 宮本百合子 「アメリカ文士気質」
・・・日本人と米国人とはどこがちがいますか? 子供の答えに曰く。年よりで、ズボンに筋がなくて、眼鏡をかけて、写真機をもっているのが日本人です。アメリカやドイツへ行くと、レンズがよいのが魅力で税のかからぬところで誰でも買おうと思うのだろう。 モ・・・ 宮本百合子 「カメラの焦点」
・・・なかでも、ギャラップ博士の米国世論調査所は、日本でも或る種の権威をもって見られて来た。リーダーズ・ダイジェストをはじめ、日本人が日本で出す新聞や雑誌でも、アメリカの世論統計を引用する場合には、しばしばギャラップの世論調査をつかい、ギャラップ・・・ 宮本百合子 「現代史の蝶つがい」
私は、最近米国の所謂文壇が、どんな作品を歓迎し称讚しているかは知らない。が、ほんの一寸でも触れて見た知識階級、又は文芸愛好者とも云うべき人々の間で、悦ばれていた二三の作家を思い出して見よう。 そう思って自分の読み度いと・・・ 宮本百合子 「最近悦ばれているものから」
・・・一体婦人問題のみならず他の総ての思想は、近頃非常に米国の影響の許に居ります。そう云う場合、人は、冥々の裡に与えられる暗示に導かれて、兎もすると無批判な雷同に堕して仕舞います。群衆の不思議な催眠術が幅を利かせます。そして、つい半年許り前は、地・・・ 宮本百合子 「C先生への手紙」
出典:青空文庫