・・・ちょうど、そこへ、米屋さんが、「たいそう、おそくなりまして。」といって、お米をとどけにきて、この話をききますと、「雌でもかまいませんから、私にくださいませんか、ねずみがいてしようがないのです。」といって、とうとう米屋さんが、ふところ・・・ 小川未明 「僕たちは愛するけれど」
・・・ 翌朝、男は近くの米屋から四合十銭の米と、八百屋から五銭の青豌豆を買ってきて、豌豆飯を炊いて、食べさせてくれました。そして、どうだ、拾い屋をやる気はないかと言うので、私は人恋しさのあまりその男にふと女心めいたなつかしさを覚えていたのでし・・・ 織田作之助 「アド・バルーン」
・・・附近一帯の大地主である××では、石塀をめぐらした主家のまわりに、米やと花卉栽培とをやる家があって、赤いポストが米屋の前に立っている。そこでは、切手も売るのであった。札のかかっている横を入って菊畑へ行ってみたらば、そこの棚にのって飾られている・・・ 宮本百合子 「この初冬」
・・・ 大家の、虎屋と云う米屋が、家賃をむさぼることで近所で有名であると云う噂が自分を恐れさせた。出来るなら、其那面倒のない、其那無気味な大家の所有でない家に、仮令暫くでも棲みたく思ったのである。 市外ならば、其程見出すのが困難でもないら・・・ 宮本百合子 「小さき家の生活」
出典:青空文庫