・・・ 生の喜悦は、現代ではますます精励な人間の精神と肉体とにしか感じられないものとなりつつあるのである。私たちはただ一度しかない自分たちの生をどんなにいとおしんでいるだろう。どんなにいい価値でそれを発揮させたいと切望しているだろう。今日と明・・・ 宮本百合子 「世代の価値」
・・・日本のように、明治以来、よろめきつつ漸々前進しつつある近代の精神を、精神の自立的成長よりテムポ迅い営利的企業がひきさらって、文学的精励、文壇、出版、たつき、と一直線に、文学商売へ引きずりおとしてしまう現象は、中国文学にまだ現れていないのでは・・・ 宮本百合子 「春桃」
・・・人々の驚歎するような精励をもって、ゴーリキイは当時のロシアの若い作家たちの生育のために助力していたし、ソヴェト社会の建設に注目をも怠らなかった。そうではあってもイタリーはイタリーなのであるし、日常の皮膚から入って来るような生活的影響というも・・・ 宮本百合子 「長篇作家としてのマクシム・ゴーリキイ」
・・・発案者の宇原重役の最初の考えでは、国策に沿うと同時に社員に安心して精励して貰うための、「会社の利益から打算しても、相当の予算を組んでやって決して損とならない一石二鳥の仕事である」と思われたのであった。然し、現実は複雑で、事に当って見ると、先・・・ 宮本百合子 「働く婦人」
・・・これまで何千何万の若い健康な女性たちが職業について、そこで経験して来た苦痛や失望や努力、精励の価値を、さらに新しく理解して、それをもう一歩進んだ明日の女性の生きる態度として自分のものにしなければならないのではないだろうか。 何故ならば、・・・ 宮本百合子 「働く婦人の新しい年」
・・・女性によって書かれたこの二種の本は、業績の相異とか資質の詮索とかを超えて結局は人類がその時代に潜められている様々の可能を実現し、花咲き実らすためには、どのような良心と、精励とが生活の全面に求められているかということについて、男性の生涯へも直・・・ 宮本百合子 「はるかな道」
・・・ 作家一人一人へ文学がその健全な成長のために求めている精励は益々大きく深まっているのだと思う。何故なら、私たちが日本の国民として、日々を現実がそのようなものとしてあらわれている世界史的規模で感覚してゆくためには、一層はっきりと自分たちの・・・ 宮本百合子 「平坦ならぬ道」
・・・世界の物理学が原子の問題をとりあげ得る段階に迄到達していたからこそ、ポーランドの精励なる科学女学生の手はピエール・キュリーの創見と結び合わされ、彼女の手もラジウムの名誉ある火傷のあとをもつようになった。愛は架空にはない。原子が、人間の幸福の・・・ 宮本百合子 「まえがき(『真実に生きた女性たち』)」
・・・そして十七歳の年からジュリアンの画塾に通いはじめ、最後の七年間、彼女の豊富な情熱の唯一の表現、対象として画家としての刻苦精励がつづけられたのであった。彼女の最後を名誉あらしめた「出あい」は、今日世界名画集からはとりのぞくことのできないリアリ・・・ 宮本百合子 「マリア・バシュキルツェフの日記」
・・・これは直接恋愛についてではないが、たとえば武者小路実篤氏が今日の時代の農村の実状からとびはなれて、二宮尊徳をその誠意や精励、慧智の故にだけ、その美徳を抽象して賛歎しているような悲しき滑稽が出現するのである。 欧州の大戦と婦人の職業戦線の・・・ 宮本百合子 「若き世代への恋愛論」
出典:青空文庫