・・・使用する器械が精巧なほど使用の注意も複雑になるから、不注意に機械的申訳的にやるのでは却って粗末な方法でするよりも悪い結果になることが往々ある。先生の方で全部装置をしてやって、生徒はただ先生の注意する結果だけに注意しそれ以外にどんな現象があっ・・・ 寺田寅彦 「物理学実験の教授について」
・・・日常普通の問題にこれを応用して少しも不都合はないはずである。精巧な測器が具備している今日でも、場合によって科学者が指や歩数をもって長さを測る事を恥としない。それで科学の方則が如何に変っても、人間社会の幸福は損われぬのみならず増すばかりである・・・ 寺田寅彦 「方則について」
・・・それにもかかわらずこの粗末な器械は不思議な精巧な仕掛けでもあるかのように全く自働的に活動している。ちょうど鶴のような足取りで二歩三歩あるくと、立ち止まって首を下げて嘴で桟橋の床板をゴトンゴトンと音を立ててつっついている。そういう挙動を繰返し・・・ 寺田寅彦 「夢」
・・・むしろ一つの非常に精巧な器械の二つの部分が複雑きわまる隠れた仕掛けで連結していて、その一方を動かすと他方が動きまた鳴りだすような関係である。それほどの必然さをもって連結されていて、しかもその途中のつながりが深い暗い室の中に隠れているような感・・・ 寺田寅彦 「連句雑俎」
・・・ またその桔梗いろの冷たい天盤には金剛石の劈開片や青宝玉の尖った粒やあるいはまるでけむりの草のたねほどの黄水晶のかけらまでごく精巧のピンセットできちんとひろわれきれいにちりばめられそれはめいめい勝手に呼吸し勝手にぷりぷりふるえました。・・・ 宮沢賢治 「インドラの網」
・・・だがアメリカで精巧な農業機械は農業労働者に何をもたらしているか? 一九二九年秋以来アメリカには農村恐慌がある。 ソヴェト同盟の耕地に一台トラクターが運転されることは、直接集団化された農民に何割かの確実な収益増大を約束するばかりではない。・・・ 宮本百合子 「五ヵ年計画とソヴェト同盟の文化的飛躍」
・・・機械器具製造では男子二一パーセント増しに対して女子三〇パーセントという大幅の増加がある。精巧工業では男子一六パーセント増に対して女子六一パーセント増、特に造船業・運搬用具製造業などでは男子三五パーセント増に対して女子一〇七パーセント増。二年・・・ 宮本百合子 「女性の現実」
・・・ 極く精巧な細っかい美くしさではあっても、偉大な魅力と威をもって我々の上に高く輝いて居るものである。 この美は多くの場合には自然の中に生きて居る、そしてどこにでもかしこにでも行きわたって居るものである。 何事につけても柔かくシン・・・ 宮本百合子 「繊細な美の観賞と云う事について」
・・・ 透き通りそうに澄みわたって、まるで精巧なギヤマン細工の天蓋のように一面キラキラと輝いている、広い広い空。 短かい陽炎がチロチロともえる香りのいい地面。 禰宜様宮田は、ジイッと瞳をせばめて、大きい果しない天地を想う。 そして・・・ 宮本百合子 「禰宜様宮田」
・・・それらの機械の精巧さ、小学校を出たばかりの女の子でも使えるまで高度に調整され、単純化された分業の過程というものは、少くとも日本の文明のある水準を語るものでなければならないと思う。そのことに疑点を挾むものはおそらく一人もないであろう。 と・・・ 宮本百合子 「婦人の文化的な創造力」
出典:青空文庫