・・・彼は自動車製造という長い全面工程のたった一つの小部分にだけ精通し、労働の全能力がそこに規画されていわば精巧なかたわにされてしまっているから、ほかのところでは役にたたない。フォードの労働者が、不景気につれて案外に低賃銀をうけ入れ、労働時間の短・・・ 宮本百合子 「文学と生活」
・・・ 元通り、仕上げの精巧なブロンズのスタンドの立って居るコーナー、しずかなメツアニン、一年前に、此処を通ったときは予想の仕様もなかったAと、今斯うやって居る―― 白い天井に小ざっぱりとした壁がみをあしらった部屋は小さいながら、まとまっ・・・ 宮本百合子 「無題(二)」
・・・人間の作る機械よりもはるかに精巧な機構を持った植物が、しかも実に豊富な変様をもって眼の前に展開されている。自分たちが今いるのはわびしい小さな電車の中ではなくして、実ににぎやかな、驚くべき見世物の充満した、アリスの鏡の国よりももっと不思議な世・・・ 和辻哲郎 「寺田さんに最後に逢った時」
出典:青空文庫