・・・夜も昼もがらがらがらがら三つの糸車をまわして糸をとりました。こうしてこしらえた黄いろな糸が小屋に半分ばかりたまったころ、外に置いた繭からは、大きな白い蛾がぽろぽろぽろぽろ飛びだしはじめました。てぐす飼いの男は、まるで鬼みたいな顔つきになって・・・ 宮沢賢治 「グスコーブドリの伝記」
・・・ ガンジーの糸車「文化の再生における信仰と科学」という亀井勝一郎氏の論文と、『中央公論』にのっている小林秀雄氏の「文芸批評の行方」という論文とは、昨今この種の批評家といわれている人々の辿っている内的斜面の姿を二・・・ 宮本百合子 「文芸時評」
・・・三匹の鼠は三つの処に分れて立ち、糸車のように体の囲りでクルクルかせを走らせながら、お婆さんの手伝いをします。そんな時、金剛石のような光りの尾を引いた流星達は、窓の外まで突ぬけそうな勢で、垂幕の端から端へと滑りました。 けれども誰一人これ・・・ 宮本百合子 「ようか月の晩」
・・・向いの内の糸車は、今日もぶうんぶうんと鳴っている。 石田は床の間の隅に立て掛けてある洋書の中から La Bruyre の性格という本を抽き出して、短い鋭い章を一つ読んではじっと考えて見る。又一つ読んではじっと考えて見る。五六章も読んだか・・・ 森鴎外 「鶏」
出典:青空文庫