・・・自分でも忘却してしまいましたが、私自身が、女に好かれて好かれて困るという嘘言を節度もなしに、だらだら並べて、この女難の系統は、私の祖父から発していて、祖父が若いとき、女の綱渡り名人が、村にやって来て、三人の女綱渡りすべて、祖父が頬被りとった・・・ 太宰治 「虚構の春」
・・・ 案内記が系統的に完備しているという事と、それが読む人の感興をひくという事とは全然別な事で、むしろ往々相容れないような傾向がある。いわゆる案内記の無味乾燥なのに反してすぐれた文学者の自由な紀行文やあるいは鋭い科学者のまとまらない観察記は・・・ 寺田寅彦 「案内者」
・・・を模様化したようなヒアガル系統の絵がある。あれはむしろ日本画にした方が面白そうに思われるのに、まだそういう日本画を見ない。これも意外である。 デパートのマークを付けたために問題になった絵が、洋画部でなかったことも偶然なようで自然である。・・・ 寺田寅彦 「異質触媒作用」
・・・ これらの原始的なしかし驚嘆すべき計量単位の巧妙な系統によって、われわれの祖先は遠い昔から立派な力学的世界像を構成していた。近ごろになってわれわれはそれを少しばかり整理しみがき上げて、そうしていかめしい学という名をつけたのである。 ・・・ 寺田寅彦 「映画の世界像」
・・・として知られた記録どおりの現象が、実際にあったものと仮定し、またこれが筑波地方の地鳴りと同一系統の地球物理学的現象であると仮定すると、それから多少興味のある地震学上のスペキュレーションを組み立てる事ができる。 ジャンの記録はすでに百年前・・・ 寺田寅彦 「怪異考」
・・・たとえば古来の数学者が建設した幾多の数理的の系統はその整合の美においておそらくあらゆる人間の製作物中の最も壮麗なものであろう。物理化学の諸般の方則はもちろん、生物現象中に発見される調和的普遍的の事実にも、単に理性の満足以外に吾人の美感を刺激・・・ 寺田寅彦 「科学者と芸術家」
・・・よくよく詮議すればどこかにその因って来るべき因縁系統がある。例えば現代の分子説や開闢説でも古い形而上学者の頭の中に彷徨していた幻像に脈絡を通じている。ガス分子論の胚子はルクレチウスの夢みた所である。ニュートンの微粒子説は倒れたが、これに代る・・・ 寺田寅彦 「科学上の骨董趣味と温故知新」
・・・それが近代科学の基礎として採用され運用されるようになって以来いっそうの検討と洗練を加えられて、今日では昔の人の思い及ばなかったような複雑でしかも整然と排列された一大系統を成している。もっともそういう方法は普通の科学の教科書には、あらわにはど・・・ 寺田寅彦 「科学と文学」
・・・金相学上の顕微鏡写真帳も、そういうスケールを作るための素材の堆積であるとも言われよう、もし、あの複雑な模様を調和分析にかけた上で、これにさらに統計的分析を加えれば、系統的な分類に基づくスケールを設定することも、少なくも原理的には可能である。・・・ 寺田寅彦 「感覚と科学」
・・・ とかく道太と、そして道太と同じ腹から生まれた姉妹とは、その系統はずれであった。「しかしいくつです」「もう七十四です。このお婆さんより二つ上です。少い時分私がこの人を始終お負ぶしてね」 道太はそんながりがりした老婆をかつて見・・・ 徳田秋声 「挿話」
出典:青空文庫