・・・地震や津浪は新思想の流行などには委細かまわず、頑固に、保守的に執念深くやって来るのである。紀元前二十世紀にあったことが紀元二十世紀にも全く同じように行われるのである。科学の方則とは畢竟「自然の記憶の覚え書き」である。自然ほど伝統に忠実なもの・・・ 寺田寅彦 「津浪と人間」
緒言 今からもう十余年も前のことである。私はだれかの物理学史を読んでいるうちに、耶蘇紀元前一世紀のころローマの詩人哲学者ルクレチウスが、暗室にさし入る日光の中に舞踊する微塵の混乱状態を例示して物質元子におい・・・ 寺田寅彦 「ルクレチウスと科学」
・・・先生は紀元前の半島の人のごとくに、しなやかな革で作ったサンダルを穿いておとなしく電車の傍を歩るいている。 先生は昔し烏を飼っておられた。どこから来たか分らないのを餌をやって放し飼にしたのである。先生と烏とは妙な因縁に聞える。この二つを頭・・・ 夏目漱石 「ケーベル先生」
出典:青空文庫