・・・を行る名士が少くない。純情無垢な素質であるほど、ついその訛がお誓にうつる。 浅草寺の天井の絵の天人が、蓮華の盥で、肌脱ぎの化粧をしながら、「こウ雲助どう、こんたア、きょう下界へでさっしゃるなら、京橋の仙女香を、とって来ておくんなんし、こ・・・ 泉鏡花 「燈明之巻」
・・・公正にして、純情な子供の心に、階級的な観念を植付けるものは、その親達でありました。中には小さな利己的な潔癖から、自分の家へ友達を呼んで来るのを厭うような母親もあるが、そうしたことが、子供をして将来、個人主義者たらしめたり、会社へ出ても、他と・・・ 小川未明 「お母さんは僕達の太陽」
・・・謙虚と純情と自己犠牲の観念によって、はじめて感激の火は民衆に移されるのである、これ即ち、ナロードニーキの精神であった。同時に、我等の精神である。 いま、科学主義万能によって、いちじるしく、軟柔性を欠き、硬直したる社会運動に、また芸術運動・・・ 小川未明 「純情主義を想う」
・・・ 理想の社会というものは、決して虚偽の上には建設されない。純情な人間性の上に於てのみ築かれる社会でなければならない。科学がいかに発達をしても、其れだけでは、理想の社会は造られない。知識というものは、時に虚偽を本とする社会をいかに美しく見・・・ 小川未明 「草木の暗示から」
・・・子供を好きな彼は、そこに田舎の子と都会の子と、なんら純情において、差別のあるのを見いださなかったのでした。「お兄さん、上手に乗れるようになったのね。」と、女の子や、男の子らは、彼の周囲に集まってきていいました。 賢一は、こうした子供・・・ 小川未明 「空晴れて」
・・・ 私達の希望する児童文学は、子供の世界のごとく、純情、素朴にして、その内部に、自から発達の機能を有する、純一の文学でなければならない。この意味において、既成の感情、常識を基礎とする、しかも廃頽的な大人の文学と対立するものでなければな・・・ 小川未明 「近頃感じたこと」
・・・たゞ、純情に謙遜に、自然の意思に従って、真を見んとするところに、最も人生的なる、一切の創造はなされるのであった。 私は、民謡、伝説の訴うる力の強きを感ずる。意識的に作られたるにあらずして、自然の流露だからだ。たゞちに生活の喜びであり、ま・・・ 小川未明 「常に自然は語る」
・・・そのことが、いかに、純情、無垢な彼等の明朗性を損うことか分らないのみならず、真の勇気を阻止し、権力の前に卑屈な人間たらしめることになるのであります。 考うるだに慨歎すべきことです。この種の読物こそ、階級闘争の種子を蒔き、その激化を将来に・・・ 小川未明 「童話を書く時の心」
・・・丹羽文雄氏にもいくらか海千山千があるが、しかし丹羽氏の方が純情なだけに感じがいい。僕は昔から太宰治と坂口安吾氏に期待しているが、太宰氏がそろそろ大人になりかけているのを、大いにおそれる。坂口氏が「白痴」を書かない前から、僕は会う人ごとに、新・・・ 織田作之助 「文学的饒舌」
・・・しかし彼の態度や調子は、いかにも明るくて、軽快で、そしてまた芸術家らしい純情さが溢れていたので、少なくとも私だけには、不調和な感じを与えなかった。「大出来だ! 彼かならずしも鈍骨と言うべからず……」私もつい彼の調子につりこまれてこう思わず心・・・ 葛西善蔵 「遁走」
出典:青空文庫