・・・ 女というものをも、トルストイはツルゲーネフの考えていたように、純情、献身、堅忍と勇気とに恵まれたもの、その気まぐれ、薄情、多情さえ男にとって美しい激情的な存在という風に理想化して理解してはいない。もっと動物的に、或は愚劣に、或は恐ろし・・・ 宮本百合子 「ツルゲーネフの生きかた」
・・・その三月の時、日頃彼を熱愛していた母は、最愛の息子が自殺して苦悶から逃げようとした態度を激励的に叱責するよりも先に、その純情と苦悶とに自分がうたれ、感傷し、感情の上で弟にまきこまれた。五ヵ月後、彼が遂に死んだ時も、母はこの濁世に生きるには余・・・ 宮本百合子 「母」
・・・こんなに純情な女の生活の苦労を知りつくして立ちあがっている大町米子さんこそは、私たちの大切な一票を得るに全くふさわしい婦人代表であると信じます。 皆さん、心から大町米子さんを支持しましょう。・・・ 宮本百合子 「婦人の皆さん」
・・・ 今度の事変で一番感じたことは、純情というものが支配階級によって如何に巧にわき道に導かれて行ったか、ということです。〔一九三二年三月〕 宮本百合子 「ゆがめられた純情」
今私たちの前には、その事件が当事者の愛の純情に発しているという意味で人の心を打った二つの現象が示されている訳ですが、私は松本伝平氏の場合と弓子さんの場合とは、それぞれ別のもので、違った分析がされなければならないものではなか・・・ 宮本百合子 「私も一人の女として」
・・・その各自の熱情に従って、その美しき叡智と純情とに従って、もしも其爆発力の表現手段が分裂したとしたならば、それは明日の文学の祝福すべき一大文運であらねばならぬ。そうして、明日の文学は分裂するであろう。大いなる酒神は、かの愚な時計の振り子の如く・・・ 横光利一 「黙示のページ」
出典:青空文庫