・・・かけてどっと自分たちの間から上った、嵐のような笑い声、わざと騒々しく机の蓋を明けたり閉めたりさせる音、それから教壇へとび上って、毛利先生の身ぶりや声色を早速使って見せる生徒――ああ、自分はまだその上に組長の章をつけた自分までが、五六人の生徒・・・ 芥川竜之介 「毛利先生」
・・・ ある日農場主が函館から来て集会所で寄合うという知らせが組長から廻って来た。仁右衛門はそんな事には頓着なく朝から馬力をひいて市街地に出た。運送店の前にはもう二台の馬力があって、脚をつまだてるようにしょんぼりと立つ輓馬の鬣は、幾本かの鞭を・・・ 有島武郎 「カインの末裔」
・・・隣組の組長もしているという。三十歳そこそこの若さでだ、阿修羅みたいにそんなに仕事が出来るのはよくない前兆だぞと、今はもう冗談にからかってもギクリともしない。不死身の覚悟が出来ているかのようである。死んだという噂を立てられてから六年になるが、・・・ 織田作之助 「道」
・・・ と戦争の事を言いかけたら、お隣りの奥さんは、つい先日から隣組長になられたので、その事かとお思いになったらしく、「いいえ、何も出来ませんのでねえ。」 と恥ずかしそうにおっしゃったから、私はちょっと具合がわるかった。 お隣りの・・・ 太宰治 「十二月八日」
・・・「梅組の組長さん、萱野アキさん、おまえがこうしてグミや、ほしもち、季節季節わすれず送ってよこすのを、ほめていました。やさしい弟さんを持って、仕合せね、とうらやんでいます。おまえの手紙の中の津軽なまり、仮名ちがいなかったなら、姉は、もっともっ・・・ 太宰治 「二十世紀旗手」
・・・いつも、組長であった。図画を除いては、すべて九十点以上であった。図画は、六十点、ときたま七十三点なぞということもあった。気弱な父の採点である。 さちよが、四年生の秋、父はさちよのコスモスの写生に、めずらしく「優」をくれた。さちよは、不思・・・ 太宰治 「火の鳥」
・・・長野は、赤い組長マークのついた菜葉服の上被を、そばの朝顔のからんだ垣にひっかけて、靴ばきのままだが、この家の主人である深水は、あたらしいゆあがりをきて、あぐらをかいている。「その顔つきじゃ、あかんな」 チャップリンひげをうごかして長・・・ 徳永直 「白い道」
・・・いっぺん組長さんに相談してみよまいか?」「どうなと勝手にせ!」と秋三は云って又奥庭の方へ這入って行った。「そんなことしてると、またごてごて長びくでな。」とお留は云った。「そうかてお前、実の所は組が引きとらんならんのやして、お前と・・・ 横光利一 「南北」
出典:青空文庫