・・・鉄石の義心は、びくともせず、之を叱咤し統御し、ついに約束の自由の土地まで引き連れて来ました。モーゼは、ピスガの丘の頂きに登って、ヨルダン河の流域を指差し、あれこそは君等の美しい故郷だ、と教えて、そのまま疲労のために死にました。四十年間、私は・・・ 太宰治 「風の便り」
・・・ このようにして映画は自由自在に空間を制御することができる上に、また同様に時間を勝手に統御することができるのである。単にフィルムの断片をはり合わせるだけで、一度現われたと寸分違わぬ光景を任意にいつでもカットバックしフラッシュバックするこ・・・ 寺田寅彦 「映画芸術」
・・・政をなす人とか、教育をする人とかは無論、総て多くの人を統御していこうと云う人も無論、個人が個人と交渉する場合に在ってすら型は必要なものである。会う時にお時儀をするとか手を握るとか云う型がなければ、社交は成立しない事さえある。けれども相手が物・・・ 夏目漱石 「中味と形式」
・・・ところで、魚住は妻の不貞に苦しみながら、一方では不良少年らの統御するにむずかしい性格によって引きおこされる事件、脱走だの集団的反抗だのととり組み、更に他の一方では、守屋が不貞をされている良人としての軽蔑をも示しつつ彼の教師という地位を危うく・・・ 宮本百合子 「作品のテーマと人生のテーマ」
・・・流転して止む事ない心の微妙な投影は、其を洞察しつつ、理解しつつ愛に満ちて統御する叡智の高度に準じて価値つけられますでしょう。認識の拡張は人類に冠を授けます。 然し認識の内容は多くの未知を、或は未完成の存在をも、今日の私共の裡に承認する筈・・・ 宮本百合子 「C先生への手紙」
・・・ 子供らしい、理性の親切な統御を失った一徹さで、まっしぐらに考えこむ彼女は、仕舞いには生きていたくなくなるほどの物足りなさと、寂寞とを感じずにはいられなかったのである。 太陽の照るうちは、それでもまぎれている彼女は、夜、特に月の大層・・・ 宮本百合子 「地は饒なり」
出典:青空文庫