・・・ と絶叫することなどは知らなかった。ベルリッツのロシア語教課書に、そのような言葉はなかったのであった。私は日本語で思わず、畜生! と口走って人ごみをかきわけたが、やっと出口まで辿りついた時どこにもその小僧の素ばしっこい姿は見当らない。こうし・・・ 宮本百合子 「時計」
・・・ 突然怯えきった絶叫が、仲間の中から起った。「アッ! 人! 人」 ハッとたじろぐ瞬間、抑えてもないロールの柄は彼等の胸から離れた。 コロコロコロ…… 一層惰力のついたロールは、「石! 早く石、石早く突支え!」 と・・・ 宮本百合子 「禰宜様宮田」
・・・ 胸を圧される心持でバスにゆられてかえって来たら、私の住んでいる駅の方からバンザーイという沢山の人間の喉からしぼり出される絶叫が響いて来た。 昨今はこういう日常の雰囲気である。『中央公論』と『改造』とが北支の問題をトピックとしている・・・ 宮本百合子 「文芸時評」
・・・と云う物凄い鬨声をあげ、何かを停車場の外へ追いかけ始めた。 観念して、恐ろしさを堪えていた私は、その魂消たような「いた! いた!」と云う絶叫を聞くと水でも浴びたように震えた。走っている列車からは、逃げるにも逃げられない。この人で詰った車・・・ 宮本百合子 「私の覚え書」
出典:青空文庫