・・・実際無類絶好の奇宝であり、そして一見した者と一見もせぬ者とに論なく、衆口嘖しゅうこうさくさくとしていい伝え聞伝えて羨涎を垂れるところのものであった。 ここに呉門の周丹泉という人があった。心慧思霊の非常の英物で、美術骨董にかけては先ず天才・・・ 幸田露伴 「骨董」
・・・私は、この機会に、なお深く自分を調べてみたいと思っている。絶好の機会だ。 信じて敗北する事に於いて、悔いは無い。むしろ永遠の勝利だ。それゆえ人に笑われても恥辱とは思わぬ。けれども、ああ、信じて成功したいものだ。この歓喜! だ・・・ 太宰治 「かすかな声」
・・・はきした口調で挨拶して、末席につつましく控えていたら、私は、きっと評判がよくて、話がそれからそれへと伝わり、二百里離れた故郷の町までも幽かに響いて、病身の老母を、静かに笑わせることが、出来るのである。絶好のチャンスでは無いか。行こう、袴をは・・・ 太宰治 「善蔵を思う」
・・・女性には、意志薄弱のダメな男をほとんど直観に依って識別し、これにつけ込み、さんざんその男をいためつけ、つまらなくなって来ると敝履の如く捨ててかえりみないという傾向がございますようで、私などはつまりその絶好の獲物であったわけなのでございましょ・・・ 太宰治 「男女同権」
・・・ いまこそ絶好の機会であると思っていた。この犬をこのまま忘れたふりして、ここへ置いて、さっさと汽車に乗って東京へ行ってしまえば、まさか犬も、笹子峠を越えて三鷹村まで追いかけてくることはなかろう。私たちは、ポチを捨てたのではない。まったく・・・ 太宰治 「畜犬談」
・・・私には、一つのチャンスさえ無かったのに、十年間の恋をし続け得た経験もあるし、また、所謂絶好のチャンスが一夜のうちに三つも四つも重っても、何の恋愛も起らなかった事もある。恋愛チャンス説は、私に於いては、全く取るにも足らぬあさはかな愚説のように・・・ 太宰治 「チャンス」
・・・そんなときこそ、小説の筋を考える、絶好の機会じゃないか。もったいないと思わないか!」 私は、一言もなかった。ありがたい気がした。五臓に、しみたのである。それからは、努力した。ともすると鎌首もたげようとする私の不眠の悲鳴を叩き伏せ、叩き伏・・・ 太宰治 「春の盗賊」
・・・「でも、いまは民主革命の絶好のチャンスですからね。」「ええ、そう。チャンスです。」「いまをはずしたら、もう、永遠に、……」「いいえ、でも、わたくしたちは絶望しませんわ。」 またもお世辞の失敗か。むずかしいものだ。「お・・・ 太宰治 「渡り鳥」
・・・はめったに出来ないから、貧乏な学者にとって、こうしたデータは絶好の研究資料になるのである。 同じ社内にある小さい石の鳥居が無難である。この石は何だろうと云っていたら、居合わせた土地のおじさんが「これは伊豆の六方石ですよ」と教えてくれた。・・・ 寺田寅彦 「静岡地震被害見学記」
・・・の一面の把握を教えるものとしてはおそらく絶好な題目の一つとなるであろう。こういう種類のテーマでまだ従来取り扱われなかったものを捜せばいくらでも見つかりそうな気がする。近ごろ見たニュースの中で実におもしろかったのはオリンピック優勝選手のカメラ・・・ 寺田寅彦 「ニュース映画と新聞記事」
出典:青空文庫