・・・ 話しの合間合間に交えられる手振も徳田さん独特だし、その手の指には網走の厳しい幾冬かが印した凍傷の痕があるのである。大いに笑う彼の顔を見て、一緒に大笑いしずにいることは困難であろう。 或る演説の中で、徳田さんは、日本婦人の一般は、本・・・ 宮本百合子 「熱き茶色」
・・・十月十日に網走刑務所から解放されて十二年ぶりで東京にかえった顕治と百合子が式に列した。[自注12]国男夫婦――百合子の弟夫婦。[自注13]林町の母――百合子の実母。葭江。一八七六年―一九三四年。[自注14]淀橋――淀橋警察署。・・・ 宮本百合子 「獄中への手紙」
・・・無期徒刑囚として宮本は網走刑務所に移された。この空襲と宮本の網走行の異常な伴奏として五月二日のベルリン陥落、つづいてドイツ無条件降伏が伝えられた。日本のどんなに多くの人間がその頃胸をとどろかせて朝々の新聞を拡げたろう。新聞には地図入りで・・・ 宮本百合子 「年譜」
この往復書簡集三巻におさめられている宮本顕治・宮本百合子の手紙は、一九三四年十二月から一九四五年八月十五日、日本の無条件降伏後、治安維持法が撤廃されて、十月十日網走刑務所から顕治が解放されるまでにとりかわされた書簡、百合子・・・ 宮本百合子 「はしがき(『十二年の手紙』その一)」
・・・無期懲役で網走にやられていた重吉は、十二年ぶりで、十月十日に解放された。いが栗に刈られた重吉の髪は、まだ殆どのびていない。 ひろ子は、元禄袖の羽織に、茶紬のもんぺをはいて、実験用の丸椅子にかけ、コンロの世話をやいていた。「さあ、もう・・・ 宮本百合子 「風知草」
出典:青空文庫